第17話 アメリカンシューティングスシ⑤
前回のあらすじ:
サブリナさんとの早撃ちスシバトルに鳥路さんが勝利した。
◆◆◆
「と、鳥路さんの勝ちだ!」
「こんなの無料で見ちゃっていいのかよ!」
「日本が銃社会じゃない理由の一端を感じたわ!」
鳥路さんの勝利に盛り上がる俺達と異なり、鳥路さん本人は哀しげに寿司げたに置かれた寿司を見つめていた。
……そうか。今回は早握り対決で味の勝負ではないから作られた寿司を食べる人がいないんだ。スシバトルでの勝敗をつけるためだけの寿司……寿司は争いの道具ではない、鳥路さんの言葉が胸に突き刺さる。
「お、おい! 部外者が勝手に神聖なスシバトルフィールドに入るんじゃない!」
体が勝手に寿司に向かっていた。綺麗な十貫の寿司と不恰好な三貫の寿司……勝負が終わった今、単なる寿司でしかない。
鳥路さんの握った寿司を一貫、口に放り込む。
……うまい。過去二回の握りと違って形に多少の乱れはあるけども、味に大きな変化は感じられない。
「美味しいよ! 鳥路さん!」
俺の行動に驚いていた鳥路さんだが、俺が寿司を食べた事でどことなく表情が柔らかくなったような気がする。
俺は更にサブリナさんの握った寿司も口に入れる。
……まぁ、マグロとシャリが合わされば寿司としての条件は満たしていると言った感じか……鳥路さんと比較するのも失礼な感じの出来だが、食べた事で一つわかったことがある。
「……サブリナさん」
「な、なんですか!? いきなり出てきて寿司を食い始める常識知らずが何の用デス!?」
酷い言われようだし、周囲の目線もなんか刺々しい。だけど、俺は間違えていない。
「正直、ヘタクソな寿司です。マグロの切り方も歪んでいて、シャリも握りすぎで固くなっている」
「はっ! そんなこと! クイックショットの寿司にクオリティなんて不要だからデース!」
「……だけど、これが頑張って作られたものだと食べてわかりました」
「ホワット!?」
「確かに見た目は良くないですが、サブリナさんなりに寿司としての形を維持しようという気持ちを感じたんです」
鳥路さんがいつの間にか俺の横に立っており、サブリナさんの寿司を食べ始める。
「なんの真似ですかエリ・トリジ! なぜテイスティングバトルでも無いのに無意味なことを!?」
「……まずい」
容赦ないなこの人……
「でも、下手くそなりに気持ちがこもった寿司……なのにあなたが調理中に銃を握ってしまった事で半端な寿司になってしまった。もっと寿司に集中すれば……もっと握りの練習をしていれば……寿司はあなたの未来を悲観して泣いていたのね」
「うっ……くっ……!」
威勢の良かったサブリナさんが口を紡ぐ。多分、図星だったのだろう。
「……銃なんて握らずに寿司を握りなさい、サブリナ・フィッシャー」
鳥路さんが少し、ほんの少しだけ微笑みながらサブリナさんに右手を差し伸べる。
最初はその手を睨んだサブリナさんだったが、鳥路さんの目を見て憑き物が落ちたかのように柔和な表情に変わる。
「私のコンプリートデフィート、ですネ……」
二人が強い握手をすると同時に拍手が……いや、ギャラリーのものじゃない! 誰か一人がわざとらしく叩いている拍手だ!
「いやいや、お見事。素晴らしいサボタージュだったよ鳥路さん」
いつも解説してくれる眼鏡の女子! だが、雰囲気が違う。眼鏡の奥にある瞳は俺達を見下すような……氷のような冷たさを感じる。
「ぶ、ブチョウさん……」
サブリナさんが呟く。部長、何部だ? まさか……
「サブリナさん、約束通りあなたのスシバトル部への入部は認めません。そもそもサボタージュは日本では外道。その上寿司の技術もこのザマ。まぁ、面白かったですよ」
「くぅ……ううっ!」
泣き崩れるサブリナさん。まさかと思うけどスシバトルするために留学したとかじゃないよね? そのレベルの落ち込み方なんだけど? いや待てスシバトル部!? いつの間にそんな部活がうちの高校に!?
混乱する俺をよそに鳥路さんは部長と呼ばれた女子に鋭い目線を向けていた。
「そんな目で見ないでください鳥路さん。私はあなたを高く評価しています。どうです? スシバトル部に入りませんか?」
「入らない」
即答する鳥路さん。まぁそうだろう……鳥路さんの寿司に対するスタンスはスシバトルと対極的なところにあると俺も思う。
「ふふ、今日のところはこの辺にしておきましょう。ですが、私はまだ諦めていませんからね? スシバトルで勝って入部させれば良い話ですし」
ニヤニヤと笑う部長さん。底知れぬ恐ろしさ……強者のオーラを漂わせている。
「私に勝てるとでも?」
俺の知る限り鳥路さんはスシバトルで無敗。俺が知らないところで行われているスシバトルも恐らく全勝しているのだろう。それだけの力が鳥路さんにはある。
突如、部長さんはサブリナさんが調理していたスペースにスっと移動した。
俺はその目を疑った。
鳥路さんよりも速い。まるで光の軌道を目で追うかのような握り……
気付けば鳥路さんの寿司げたの上に部長さんの握った寿司が一貫追加されていた。
「これは……」
鳥路さんよりも早く握ったにも関わらず、その寿司は鳥路さんが丁寧に握った時と同等の美しい出来……一手握りで作られた鳥路さんの寿司が霞んで見えるほどの寿司だ。
……鳥路さんが寿司で驚いているところを初めて見た気がする。回転寿司の時は、まぁ、ノーカウントで……
「スシバトルを舐めるなよ、鳥路英莉」
そう言って部長さんはモーセの如く道を開けるギャラリーに見送られながら家庭科室を出て行った。
……俺達はまだ、本当のスシバトルを知らないのかもしれない。
◇◇◇
アメリカンシューティングスシ おわり
感想・評価をいただけると、執筆の励みになります。
◇◇◇
こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




