第11話 スーパーエクスプレススシトレイン④
前回のあらすじ:
いざ、ねこまた寿司へ。
◆◆◆
ねこまた寿司の店内に入り、賀集さんが入り口にある大型液晶端末で迷いなく操作を進めるとスムーズにテーブル席に案内された。店内に流れるねこまた寿司のイメージソングが妙に頭に残る。
「そこの蛇口で手を洗うんだよ、鳥路さん」
「火傷させたいの? それぐらいは知ってるわよ山本くん」
定番のジョークは通じなかった。いや通じたと言えるかもしれない。
座席は四人用のボックス席でレーン側に俺と賀集さん、俺の隣に輝理、賀集さんの隣に鳥路さんという感じになった。とりあえず人数分のお茶を淹れて一息つく。
「あ、お兄ちゃん、それ取って」
輝理が指差すのは定番のサーモン。レーン側にいる宿命なので素直に保護カバーを開けてサーモンの皿を輝理に手渡す。
……その様子を見ていた鳥路さんが目を丸くしている。信じられないといった感じの表情である。鳥路さんの手にはしっかり注文用のタブレットが握られていた。
「お、マヨコーンだ」
賀集さんも迷うことなくレーンからマヨコーンを手に取る。鳥路さんがそれを二度見する。面白いなこの人。
……俺も結構注文して食べる派ではあるが、ここは流れに乗ってレーンからマグロ取る。マグロはどんな寿司屋でも失敗はないと思っている。うまい。
「な、なぜレーンから寿司を!?」
「いや、回転寿司だから……」
鳥路さんの質問に真っ当な答えを返す。
「鮮度は!? 何周したやつかもわからないのに!?」
「ねこまた寿司では何周かしたお皿は撤去される仕組みなんだよー。だからそんなに心配しなくてもへーきへーき!」
ねこまた寿司ファンガールの賀集さんが鮮度について答える。そういう仕組みだったんだ。普段の学校や寿司屋やスシバトルでは見れない鳥路さんの新鮮な反応に何とも微笑ましいものを感じる。鳥路さんの目線は何回かレーンとタブレットを往復したが、結局タブレットでの注文にしたらしい。
「鳥路さん、ねこまた寿司は初めてって言ってたけど、回転寿司も初めて?」
「いや、その、使ったことはあるけど持ち帰りぐらいで……何それ?」
「コンビーフだけど」
「コンビーフ!?」
賀集さんが会話しながら取ったコンビーフにビビる鳥路さん。
そういえば北海道の回転寿司はレベルが高いと聞いたことあるんだよな。鳥路さんが利用するんだから多分美味しいのだろう。
「お兄ちゃん、ネギトロと何か美味しそうなの」
「はいはい」
横にいたネギトロとエンガワを取って妹に渡す。俺はたまたま視界に入ったイワシの皿を取って寿司を口に放り込む。うん、美味しい。
『ご注文のお寿司が到着しました』
イメージキャラであるねこまたちゃんの電子音声が鳥路さんの注文した白身魚の寿司、恐らく鯛の到着を教えてくれた。黒皿のちょっとお高いやつだ。賀集さんがそれを取って鳥路さんに渡す。
「もっと一気に頼んで良いのに」
「た、確かに」
俺達は既に三皿目を狙っている段階で鳥路さんはまだ一枚目。このペースでは差が出てしまうだろう。
「鳥路お姉ちゃん、タブレット貸してー」
抱えていたタブレットを妹に渡す鳥路さん。タブレット仲間が出て少しホッとした表情を見せる鳥路さん。
「何を頼むんだ?」
「ラーメン」
「ラーメン!?」
俺と妹の会話に鳥路さんが驚く。そんなにか?
「ねこまた寿司のラーメンは出汁効いてて結構いけるんだよ?」
賀集さんの説明通り結構いける味なのは俺も知っている。
「寿司屋でラーメンなんて……」
「お寿司屋さんでも茶碗蒸しとか食べるでしょ? それと同じようなもんじゃない?」
多分違うと思うけど、賀集さんの言い分に反論できずに唸る鳥路さん。
妹が序盤からプリンも頼んだことを知ったら失神するかもしれん。
「あとは白身からスタートしなくても良いし……自由に好きなものを食べれるのも回転寿司のいいところだよね」
賀集さんの言葉に鳥路さんがハッとした表情を見せる。賀集さんは寿司の注文のセオリーを知った上でマヨコーンからスタートしている事実に驚いたのだろう。俺も賀集さんが普通の寿司の造詣に深いことに驚いている。
「お値段が安くて心配かもしれないけど、ねこまた寿司は品質や鮮度もしっかりしてるから……まぁ回らないお寿司屋さんに比べると下かもしれないけど」
ねこまた寿司はファミリー層向けであるため、安かろう悪かろうな回転寿司と異なり食品の安全にはかなり気を遣っているお店でもある。
鳥路さんはレーン上の寿司を見つめる。恐らく鮮度を見ているのだろう。俺が見る限り干からびた寿司は一つもない。ねこまた寿司の企業努力を感じる
「……私は回転寿司を舐めていた。ごめんなさい」
賀集さんに頭を下げる鳥路さん。
「あわわ! そ、そんなつもりで言ったわけじゃないよ! 一緒に食べてるんだし、楽しく食べないと、ね? それに私、鳥路さんとも仲良くなりたいし!」
賀集さん、本当に良い人だな。色々な人と仲の良い賀集さんだが、本当に誰にでも優しいということは改めて理解した。孤立している鳥路さんを見てきっと何とかしてあげたかったのだろう。
「……賀集さんのおすすめを取ってもらえる?」
「オッケー!」
鳥路さんが他人に寿司を委ねる。まだ付き合いは短いが、鳥路さんに取ってはかなり勇気のいる行為なのだろうと察することができた。
寿司への強い拘りと友情の間に揺れていた心は友情を優先したようだ。
「はい、ねこまたロール! やっぱこれかな!」
賀集さんが選んだのは、ねこまたロール。実態はほぼカリフォルニアロールである。カリフォルニアロールが海苔を内側にして巻くのに対し、ねこまたロールは普通にノリが外側になっている。具材はカニ風味かまぼこ、アボカド、マヨネーズといったカリフォルニアロールとほぼ同じもの。あとは断面が猫の顔の形になるように調整されているのが大きな特徴だろうか。
「寿司が!!! なっ! ふんっ!!」
「鳥路さん!?」
多分、寿司が泣いていると言いそうになったのを自分の腹を殴ることで止めた鳥路さん。
……生き辛そう。
感想・評価をいただけると、執筆の励みになります。
◇◇◇
こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




