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第103話 スシネバーダイズ後編⑦

前回のあらすじ:

鳥路と帯刀によるスシバトルは鳥路の勝利で幕を閉じた。

しかし、鳥路が勝者として敗者の帯刀に何かを言う前に帯刀は気を失ってしまった。

スシバトルの火が消え、炎で隠れていた物が見えてきた結果であった。


◆◆◆


 鳥路さんと帯刀のスシバトルが終わって数週間……その間に月は五月から六月に切り替わり、テスト期間も何事もなく終わった。


 結論から言うと、スシバトル部の寿司屋襲撃計画は実行されなかった。


 部長の帯刀が鳥路さんに負けた直後に倒れた事、スシバトル部内での内輪揉め、スシバトル部とロボ研が生徒会や教師陣からガッツリ怒られた事など……色んな要因が重なったためであろう。


 倒れた帯刀も原因が疲労やストレスによる一時的なもので、スシバトルの翌週には学校に復帰していた。テスト期間の前に本人から寿司同好会にスシバトル部の蛮行について直接謝罪があった時は、同じ人物かと思うぐらい覇気を感じられなかった。

 俺も鳥路さんも帯刀に言い過ぎた事をその時に謝罪したけど……彼女は気にしてないと力無く笑っていた。帯刀は逆に鳥路さんにスシバトル勝者の特権をいつ行使するのかと確認したが、スシバトル部が機能停止した今、何を言うべきか鳥路さんがすぐに思い付かなかったため、その話は一旦保留となった。

 司先生や他の寿司同好会メンバーも鳥路さんの保留の判断に賛同してくれたし、無論、俺も賛成した。いっそ、このまま無かったことにしても良いとも思っていたけど……それでは帯刀が納得しないだろう。


 ああ、あと! テスト期間が終わった後に、笹垣がイヤイヤそうながらも数人のスシバトル部員を連れて寿司同好会に謝罪に来たのは良かったな! 

 笹垣は次は負けないとか、最後に勝つのは寿司王国だとか、ピーギャーと色々言っていた気もするけど……スシバトルの火で狂ったような様子はなく少し安心した。こいつなりに帯刀を大切に思っていたのは本当だろうし、これ以上何かを咎める気もない。

 まぁ、俺がそんな表情を見せてしまったから笹垣はさらに不機嫌になったんだけども。結局、笹垣はいつもの調子に戻り、スシバトル部員に引き摺られて帰って行った。

 引き摺られる笹垣に日本寿司罵倒協会との関係について最後の最後で確認したけど……鳥路さんに負けた翌日には連絡ができなくなったらしく、更には向こうの目的が帯刀の方にあり、その具体的な目的も笹垣は帯刀から聞けていないとの事だった。

 



「というわけでね! テストも終わって油断しているでしょうけど……終わったのは中間テストだから! あとは夏休みまでダラダラしよー、なんて思わないように! 期末に向けて襟を正しておくことをお勧めするわ!」 


 俺はホームルームで寿司が関与していない時の明るい感じの司先生の話をぼんやりと聞いていた。俺みたいな無気力学生に向けた言葉なのだろうけど、常時やる気全開の鳥路さんぐらいしか頷いていなかった。

 そんな鳥路さんの中間テストの総合成績は学年二位。転校してきてから寿司ばっか握ってたはずだったのに……なぜ? いつ勉強してたの?

 ちなみに学年一位は帯刀だった。一年生の時も上位だったらしいけど、色々吹っ切れて勉強に集中した結果なのだろう。やっぱ天才だわ、帯刀冴。

 俺の成績? 赤点はなかったよ! 賀集さんは、ええっと、ギリ補習です。


「はい、じゃあ今日は以上! 気をつけて帰ってね! 掃除当番の人はよろしく!」


 ホームルームが終わった。今日の寿司同好会は全員で寿司を握ってその品評会を行う予定だ。寿司同好会のメンバーとして多少は握れないとね。現状、俺のライバルは金星さんだ。


「山本くん」


 夏服姿の鳥路さんが声をかけてくれた。


「鳥路さん? もう家庭科室行く感じ? 賀集さんと金星さんの予定終わってからだと思ってたから……ちょっと待って荷物整理するから」


「家庭科室の前に……付き合って欲しい」


「ああ、おっけ……なんて?」


「一緒に来て」


 鳥路さんがそういう意味で言ってない事を俺はわかったけど、そうではない人達は俺に向けて殺気のような物を飛ばしてくる。言い方とか、もっと、こう……ね?



◇◇◇



「……決まったのね」


 俺と鳥路さんの姿を見て、眼鏡をかけた帯刀は覚悟を決めたように言った。

 俺が鳥路さんに連れて来られたのは帯刀のクラスの教室。因縁が残るメンバーの来襲に帯刀のクラスメイト達も騒ついている。

 あと、俺は鳥路さんから帯刀に何を言うかの相談は一切受けていない。多分、他のメンバーもそうだと思う。


「付いてきて」


 鳥路さんはシンプルに帯刀に同行を求める。更に場所を変えるようだ。


「場所を変えるの? どこへ?」


 帯刀もどこに行くかは気になるようだ。


「学食」


 鳥路さんは振り向きながらそう答えた。



◇◇◇



 桶ヶ丘高校の学食は結構優秀で安く美味いものが提供されるため昼休みは激戦区になる。俺はそういった喧騒は避けたいので弁当や比較的マシな購買で昼食を済ませることが多い。

 ……流石に放課後だと営業時間外だし人の姿は無い。


「あれ? この時間って入っちゃって良いんだっけ?」


「許可は貰ってる」


 相変わらず鳥路さんはしっかりしてるな……というかいつの間に許可を貰ったの?

 鳥路さんは俺と帯刀を席に案内すると、鞄から見覚えのある容器を取り出す。


「今から人を呼んでくるから、二人でこれを食べて待ってて」


 鳥路さんが取り出したのは購買でここ最近販売されるようになった助六すけろく寿司ずし。稲荷寿司とかんぴょう巻と太巻きの入った結構ボリューミーな奴。いつも鳥路さんの食べかけを見かける事が多かったので完全体を見るのは実際初めてかもしれない。


「助六寿司か……かんぴょう巻で敗北した私はこれを食べて反省しろってことかな?」


 帯刀が自嘲気味に笑う。


「違うけど……」


「あ、うん……君はそういう事しないもんな……」


 鳥路さんはあっさりとそれを否定した。帯刀も鳥路さんがどういう人間かわかってきたようだ。あとは俺も食って良いって言ってたしね。

 ……いや、なんで俺呼ばれたんだ? 帯刀を一人で待たせないための繋ぎ!?


「じゃあ、すぐ戻るから」


「ちょ!? 鳥路さん!?」


 俺の声が届く前に鳥路さんの姿は消えていた。

 改めて学食には俺と帯刀以外の人間がいない事を確認する。


「……」

「……」


 き、気不味い! 何を話せば良いんだ!?

 何か話題! 話題! 寿司!


「た、帯刀、さんって! 寿司が好きなんだよね!?」


「え? ええ……多少はね」


 そうでもない? いや、そんなはずないだろ。


「でもほら、スシバトル部だしさ。あと、松風鮨にその……あれ、殴り込みに行くぐらいには気合い入ってたわけだし」


 良い言葉が出て来ずに結局思ったままの言葉を使ってしまった。


「単純に好きなだけだったはずなのに……どうしてそんな事をしたのかしらね」

 

 窓の外を憂いた目で見つめる帯刀。

 ……今なら聞けるかもしれないな。


「……寿司職人に女性が少ない事を怒ってたみたいだけど、そう思ったのには何かきっかけがあったんじゃない?」

 

 帯刀は少し驚いた表情を見せる。


「剣道……やってたのよね」


 帯刀は目を閉じ、ゆっくりと語り始める。

 剣道やってたんだ……苗字に刀の漢字が入ってるし、しっくりくるなぁ。


「当時は部員も少なくて男女混合で練習してたんだけど、男子にも余裕で勝てるぐらい強かったのよ?」


「ああ……何となく想像つく」


 俺の周囲の女子って何か強い人多いんだよな……


「まぁ、負けた男子は女だから手加減したとか言うし、大会でも男女別だから決着つけられないしで……ずっとモヤモヤしてて。それが嫌で中学の途中で剣道やめちゃった」


 笑ってはいるけど悲しげな表情だ。


「高校に入ってもそれが嫌で部活をする気も起きないし。かといって暇は持て余してたから……」


「そこで寿司が出てくる感じ?」


 自分でも何言ってるんだという確認だけど、もう寿司の流れだよこれ。


「そ。どうせなら好きな物を極めようって。性別も関係なさそうだと当時は思ってたしね。それで、どうやったら早く握れるようになるか、下処理の最適解はどうすれば良いかとか……凝り性だから手順や分量の記録をまとめてく内に寿司は誰でも握れるようになるものなのではって思うようになったわ」


「実際、スシバトル部はそのノウハウでみんな寿司握れるんでしょ? 凄いよ、本当に」


 正直、俺も読ませて貰いたい。


「仮説が生まれたなら実証する必要がある。私は自信を持ってその話と一緒に松風鮨に……ふふ、そうね、殴り込みに行ったわけよ。結果はもう言わなくてもわかるでしょ?」


 俺の誤った言語センスがそのまま採用された。

 ……ここで話が繋がるわけか。


「で、でもさ! 実際は男女とか関係なかったわけだし、昔は剣道やれてたんだから体力もちょっと鍛えれば大丈夫じゃないかな? それに……俺、今の帯刀さんなら……ちゃんと人を見て寿司を握れると思うんだけど!」


 スシバトルの火に狂っていない今の彼女なら……技術もあるし、鳥路さん、いや寿司職人並の寿司を握れるはずだ。


「ありがとう。でも、それは無理な話ね」


「な、何で!?」


「寿司屋を一軒潰した人間に……寿司を握る資格はないわ」


 ……いわい寿司の件。やはり帯刀も重く受け止めているようだ。


「で、でも、スシバトル部は続けるんだよね? だったら……!」


「スシバトル部も辞めるつもり。鳥路さんもそのために私をここに連れてきたんじゃないの? 私がやらかした事、彼女、相当怒っていたし」


「それは……! 違う! 違うと思うよ!」


 鳥路さんはそんな事を望んでいない……! でも、帯刀は寿司から離れることでけじめを付けるつもりなんだ!


「……まぁ、本人が戻ってきたらわかる話ね。お言葉に甘えてこの助六寿司を食べて待ってましょう。出されてものに手を付けないのも失礼ってものよ」


 俺が何か言ってどうこうできる話じゃないかもしれない……実際スシバトルに勝ったのは鳥路さんだし……でも鳥路さん一人にそんな責任を取らせるのは……


「食べないの?」


「え!? ああ、いや! いただきます!」


 帯刀に促され稲荷寿司を一つ手に取って口に入れる。帯刀はかんぴょう巻を選んだようだ。


「ん!? 美味しい! なるほど! 鳥路さんがリピートするわけだ! それに、これってシャリに色ついてるし赤酢かな? こう言うのもアレだけどこの手の寿司で赤酢使ってるのって珍しくない?」


 ちょっと寿司に詳しくなったのでつい語ってしまった。俺より寿司の造詣に深い帯刀に言うような事ではなかった気がする。

 

「……嘘、何で? どうして!?」

 

 帯刀は一口食べて何かに気付いたのか動揺している。

 そして、太巻きの一つを手に取り中身を押し出し、海苔とシャリだけにしてしまう。


「え!? ちょ、ちょっと、何してんの!?」


「後でちゃんと食べるから!」


 帯刀はそう言って海苔とシャリだけになった太巻きを口に入れると、帯刀が固まる。


「た、帯刀さん!? 大丈夫!? 喉に詰まったの!? お茶飲む!?」


 口を抑えながら首を横に振る帯刀。咀嚼中に声かけてごめんなさい……


「この赤酢……味付け……間違いない……!」



 帯刀は信じられないといった感じで言葉を続ける。



「い、いわい寿司の……シャリ!」




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◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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