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第1話 ファーストスシストライク①

 寿司屋のランチ。比較的安価にお寿司を味わえる庶民に優しいサービスである事が多い。人件費や光熱費の関係であったり、端材の利用によるコスト削減など様々な理由があるのだろうが、我々庶民にとって安く美味いものが食えると言うことに理由など必要ないのだ。


 しかし、その期待を裏切られた時、人はどのような反応をするのだろうか?


 ……俺、山本やまもとあおいはその日まで食べ物の恨みと言う言葉を甘く見ていた。いや、本物を知らなかったのだと思い知らされたのだった。


 これはある休日のお昼時、俺が母親と妹と一緒に寿司屋のランチに行った時の話である。



◆◆◆



「お兄ちゃん! お寿司楽しみだね!」


「そうだなぁ。母さん、良かったのか? こいつのリクエストそのまま採用して寿司なんて」


「良いのよ! たまには贅沢しなきゃ、ねー!」


「ねー!」


 中学の妹に寿司の味がわかるのかは怪しいが、高校の俺もたまの贅沢というものに少しテンションが上がっている。

 別に貧困というわけではないが、うちはそこまで裕福という訳ではない。ただ、親父だって転勤先で美味いもの食ってるんだろうし、多少の贅沢は許してくれるだろう。


「お待たせしました、ランチセットになります」


 テーブル席に運ばれてきたランチセット、写真通りの見た目で美味しそうに見える。昼と夜で桁が変わるのは一体どういう仕組みなんだろうか……企業努力?


「いただきまーす!」


 妹の挨拶に少し遅れて俺と母さんも頂きますをして寿司を食べ始める。白身からが良いんだっけ? まぁ、何でも良いんだろうけど、グルメ漫画知識を信じてそうしてみよう。


 種類のわからない白身魚の寿司を食べる。


 ぱさっとしていて、ワサビに負ける魚の風味は何を食っているか本当にわからない。シャリの酢の味がトゲトゲしく、何なら物理的にも固い。

 ……うまい? うまいのかこれ?

 たまたまこのネタがハズレだっただけか?


 マグロなら大丈夫だろ。マグロだぞ? 外れるわけが……あって良いのか? スーパーのパック寿司のマグロの方が美味しい気がする。緊張で俺の味覚がイカれている? 夜は確かに庶民に届かない値段の寿司屋だし値段相応の美味さのはず。それがランチだからと言ってここまで不味くなるか? いや、そんなわけがない。俺の舌がおかしいだけだ。

 妹と母さんの顔を見る。

 妹は口を押さえ涙ぐんでおり、母親は目に見えて動揺している。俺と同じ感想を抱いているっぽい。


「お、美味しくない」


 妹は小声だったが、静かな店内では通りが良く、店内の人間の視線が俺達の席に集中する。


「お客さん! 馬鹿言っちゃいけませんねぇ! うちは高級寿司屋ですよ! ランチとは言え不味い寿司を出すはずがありません! そうですね!?」


 カウンターで寿司を握っていた大将が他の客に聞こえるような大きな声で妹を注意する。なんて横柄な……客に対して気遣いとかはないのか? 自分のミスとかを考えていないのか?


「そ、そうですね。成金寿司がまずいもんを出すわけがない!」


「いやぁ! 高い寿司は違いますな!」


 その場にいる大人達は大将の味方らしい。

 楽しい食事の場が息苦しくなる。確かに不味いと呟いた妹に非はあるのかもしれないが、あれは心から漏れた本音だ。俺だってこの寿司は美味いとは思えない。母さんだって苦笑いしながら寿司を食べ進めているだけで、不味いという感想を隠しきれていない。俺達は舐められているのか? このまま黙っていて本当に良いのか?


「カウンターの嬢ちゃんもそう思いますよねぇ!」


 カウンターの隅にいる女の子に大将が話しかける。俺と同い年ぐらいか? 結構可愛い顔してるな……てか、一人で寿司食ってるのか? もしかして年上? 見た目じゃわかんないな……

 話しかけられた女の子は大将の言葉を無視し、最後の一貫を食べ終える。


「美味くて声も出ねぇか! がはは!」


 寿司屋とは思えない下品な笑い方をする大将。なんという店を選んでしまったのだろうか……



「……泣いている」


「あん?」


 女の子が何かを言ったようだが、俺の位置からは聞き取れない。目の前の大将も聞き取れていないようだ。泣いている、は聞こえたけど。何がだ?


 突然、女の子は握っていた箸をへし折り、席から勢いよく立ち上がる。



「寿司が……! 泣いている!!」



 見た目からは想像できない声量での糾弾。当然店内は静まり返った。


 これが俺と彼女……鳥路とりじ英莉えりとの初めての出会いだった。


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◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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