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24 あの子の物は、私の物(ケイシーside)

「はぁ、疲れた〜。何で私がこんなことしなきゃならないわけぇ?」

 男爵邸に到着し、ぶつぶつと文句を吐き出しながら馬車を降りる。


 さっきまでピーター様の母親から、侯爵夫人としての教育やマナーなど叩き込まれていた。

 侯爵子息の婚約者になれば、豪華なドレスを着て高価な宝石を身につけ、毎日遊んで暮らせると思っていたのに。


 正式な婚約者になってからというもの、ピーター様は私にちっとも贈り物をしてくれなくなった。理由は「母上がうるさいから」ですって。


「あのオバサン、口うるさいし、本当ムカつく〜っ」

 イライラしながら玄関へ向かう途中で、見知った顔と出くわした。


「あれ? クリフじゃない。あなた、来てたのね」

「あぁ、お嬢様。こんにちはー」

 銀髪で長身のその男は、相変わらず軽薄そうな笑顔を浮かべている。

 二年ほど前からうちの屋敷に出入りしている。虫の学者の助手で、父親が蝶の幼虫を育てるために雇った男だ。


「今日も侯爵邸に行ってきたんですか? 大変っすねー」

「まぁね、仕方ないわ。いずれ侯爵家の財産を全部手に入れるためよ。今は我慢してあげるわ」

「あははっ、そうですかー」

 クリフは面白そうに笑ったあと、周囲を窺い、そっと私に顔を近づけた。


「……実はお嬢様にお願いがあるのですが、直接、俺と侯爵様を取り次いでもらえませんかねー?」

「は? どういうことよ?」


「いや、ちょっと男爵からの給金が少なすぎましてね。俺が育てた蝶を直接売っていただければ、お嬢様にもそれ相当の謝礼はお支払いしますよー? 最近、ピーター様からの貢ぎ物がなくて困っているんでしょ?」


 クリフの提案に、ごくりと唾を飲み込んだ。この男は人の痛いところを突いてくる。

 あの守銭奴な父親のことだ、クリフの給金もかなり安く叩かれているんだろう。同情しないこともない。


「わ、分かったわよ。だけど私の仲介料は安くないわよ?」

「はいはい。承知してますよー」

 クリフはニヤリと胡散臭い笑みを浮かべた。


「あ、そうだ、お嬢様」

 突然クリフは思い出したかのように、声を上げる。

「なによ?」

「ティナという令嬢をご存知で?」


「はっ? ティナ!?」

 思いがけない名前に驚いてしまう。この男の口から聞くとは思わなかった。


「知っているもなにも、親友よっ」

「あー、そうだったんですね! ……ふーん、性悪なお嬢様とは随分とタイプが違うけど……」

 クリフが何か小さな声で呟いたが、聞き取れない。


「ん? なんか言った?」

「いえいえ、なんでもー。……実は彼女、最近先生の研究所に、婚約者と一緒に来てるんですよー」


「は!? 婚約者!? 何よそれっ!」

 私は意味が分からず、クリフに飛び掛かるくらいの勢いで詰め寄る。


「え? 親友なのに、知らなかったんすかっ?」

「あっ、それは……、最近は忙しくて、ちょっと会ってなかったのよ!」


「そうなんですね。何でも商家の息子らしくて、かなり金持ちの匂いがしてますねー。しかも、彼女にべた惚れって感じで、見てるこっちが恥ずかしくなるくらいっすよー」

 クリフは心底うんざりしたような顔で、片手をひらひらと仰ぐ。


「は……?」 

 耳を疑った。


 私はうるさいオバサンに嫌味を言われながら、必死に勉強してるのに、あの冴えないティナは、金持ちの息子に愛されている?


 婚約披露パーティーでは、絶望の淵に突き落とすことに成功したはずだった。あの子は騒ぎを起こし、第二王子に連行されたのだから。

 ピーター様も「もう社交界に戻れない」と言っていた。


(たとえ平民だとしても、ご、豪商の息子……。しかも、べた惚れ……ですって……?)

 想像しただけで、はらわたが煮えくり返ってくる。


(く、悔しい、悔しい、悔しい……っ! 私よりあの子が幸せでいるなんて許さないっ!)


 その時、ドロドロとした感情の中で、ふと名案が浮かぶ。


(――あ、そうだわ。また、奪っちゃえばいいじゃない。うふふふっ)


 私は笑いが止まらなかった。

 ピーター様の時と同じだ。あんな冴えない子より、可愛い私の方がその男だっていいに決まっている。


「クリフッ。今すぐに私をその研究所に連れて行きなさい」

「はぁ? 今すぐ!? ……はいはい、分かりましたよー」


(ふふっ、待っててねぇ、ティナ様。あなたの大切な人、すぐに私のものにしてあげるからぁ)


 

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