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13 婚約披露パーティー前日譚(ケイシーside)

 私は装飾があしらわれた宝石箱を開けた。ダイヤ、ルビー、エメラルド、まばゆいばかりの宝石の数々に、うっとりと目を細める。


「うふふふっ、やっぱり素敵だわぁ」

 この宝石たちはみんな、婚約者のピーター様が贈ってくれたもの。

 ちょっぴり瞳を潤ませ、上目遣いをして甘えた声でおねだりすれば、何でもプレゼントしてくれる。背は低いけど、かっこよくて本当に最高の婚約者だ。

(ピーター様、だーい好き! ずーっと私に貢いでね)

 

 私とピーター様は正式な婚約者になり、明日は婚約披露パーティーが行われる。

 ティナ様には招待状と共に、私が心を込めて書いた手紙を添えて送った。

(ティナ様、来てくれるかなぁ……?)


 うちはとても貧乏だった。舞踏会に着ていくドレスも、身につける宝石も、何もない。

 それもみんな父親のせいだ。

 父親は商才が皆無で、あちらこちらに手を出しては失敗し、うちの財産を食い潰していった。私は幼い頃から虫やネズミのいるボロボロの屋敷で、家畜以下の生活をしてきた。

(もう、こんな生活はイヤ! いつか金持ちと結婚してやるんだから!)


 デビュタントの日、流行遅れのドレスを着ていた私は、令嬢たちから馬鹿にされた。これは母のものを手直ししたドレスで、流行とはほど遠い。

(流行なんて知らないわよ! 白ければ何でもいいんじゃないわけ!?)


 悔しくて、悔しくて、絶対に金持ちでイケメンの、何でも言うこと聞いてくれる男を捕まえてやると、私は決意を新たにした。

 そこで父親に頼み込み、どうにか最新のドレスを手に入れ、夜会に参加することができた。父親からは『これだけ金をかけてやったんだ、絶対にいい男を捕まえてこい!』と言われ、

(うるさいわよ! 元はといえば、あんたのせいでしょ!)

 喉まで出かかったが、ドレスを用意してくれたことに免じて黙ってあげた私は優しい。


 しかし、夜会に参加してみれば、高位貴族の嫡男には既に婚約者がいるし、残っているのは次男以下やお金のない下位貴族ばかり。

(あ〜あ、今回は不作だわ……)


 その会場で、婚約者に軽くあしらわれ、壁の花になっている一人の令嬢を目撃した。こげ茶色の髪に薄茶色の瞳はとても地味だったが、それなりに可愛い子だった。

 私を馬鹿にしていた令嬢たちとは違い、控えめで優しいティナ様とは仲良くなった。


 その後、父親の蝶のレプリカを販売する事業が当たり始める。綺麗な蝶を飾りたいという物好きな貴族がいるらしい。

(蝶のどこがいいわけ? その辺にいくらでも飛んでるじゃない!)

 それをティナ様に話すと、彼女は目の色を変えた。そして、『実は私も、蝶とか幼虫とか、大好きなの……』と、頬を染めて話してくれた。なんでも、幼少の頃から領地に引きこもって幼虫を観察していたという。


(は? 冗談でしょ? 虫を観察してたなんて……。こっちなんて、虫と暮らしてたわよっ!)

 それを聞いた私は、ふつふつと怒りや憎しみが込み上げてきたのだ。

 私が貧乏に苦しんで、好きでもない虫と暮らしていた時、この子は領地で、ふわふわと虫の観察をしていたなんて。

 伯爵家のご令嬢で、侯爵家の嫡男という婚約者がいて、次期侯爵夫人。私と違い、こんなにも恵まれている。


(……そうだ。奪っちゃおうかな……全部)


 ティナ様からピーター様を奪い、悪評を立てるのはとても簡単だった。でも、誤算はティナ様があまり悔しがってなかったことだ。

 あの子の、絶望と屈辱に歪む顔が見てみたい――。


 

「これに庭の毛虫を、詰められるだけ詰めておいて」

 私は使用人に向かって、事前に用意しておいた小箱を放り投げる。

 父が蝶の幼虫を育て、本物の蝶まで売るようになった。庭に置いてある木箱には、毛虫がうじゃうじゃと入っている。少しくらい捕まえてもバレないだろう。


 毛虫令嬢が毛虫を投げつけた――。あの噂を本当にすればいい。

 自分で毛虫を振りかけるのは気持ち悪いけど、ティナ様に苦痛を味わわせるなら少しくらい我慢できる。


(ふふっ、ティナ様、どんな顔するかしら。今から楽しみでしかたないわぁ)

 

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