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贈り物のブレスレット

 それから数日、僕たちは森の中を歩き回った。慣れない道で足場は悪く、ひきこもりで運動不足の僕は何度も落ちている枝や石に躓いて転んだ。帰るころには全身泥で汚れ、疲弊していた。

 一方シャロンは元気いっぱいだった。仕事で各地を回るからか、森の中でもスムーズに動き回り、野草や木の実を食べたり、木に登ったりして楽しんで探していた。

「腹壊しても知らないからね」

「大丈夫、大丈夫~」

『俺も食べル~』

「ヤムも食べたいってさ」

 シャロンはヤムに木の実を食べさせた後、僕の口にも木の実を放り込んだ。

「おいしいでしょ」

「……おいしい」

 そう答えるとシャロンは嬉しそうに「でしょ」と返し、探し物を再開した。

 こうして一緒に過ごしていくうちにシャロンとヤムとの日々を楽しく感じている自分がいた。

 それにシャロンの新たな一面も少しずつだが見えてきた。

 僕が森で足が滑らせて崖から転落しそうになった時、シャロンは僕の腕をとっさに掴み冷静に引き上げた。普段とは違うシャロンの真剣な表情に少し困惑したが、少し頼もしくも思えた。

(いつもこのくらい頼もしかったらいいのに……)


 森で小休憩をしていると、近くの木の上の方にある鳥の巣らしきものから微かに光が反射するのに気が付いた。

(……もしかして)

 すぐに寝ころんでいたシャロンに声を掛け、木に上って巣の中を確認してもらう。

 すると綺麗な水色の石がはめ込まれた木製のブレスレットがそこにあった。

「あった!これだよ、探していたブレスレットだ。これでちゃんと届けられるよ」

 シャロンは木に登ったまま、嬉しさのあまりブレスレットを持った手を僕に向けて振り回す。

「シャロン、またどっかに落としちゃうよ!危ないし降りてきたら?」

『そうだゾ。まったく、子供じゃないんだかラ』

 シャロンは冷静になり少し恥ずかしそうに木から降りてきた。シャロンの子供のようにはしゃぐ様子を思い出し、僕は笑いをこらえきれず吹き出してしまうと、シャロンも楽しそうに一緒に笑った。


 いつものようにみんなで帰宅すると、玄関の前に大きな紙袋を下げた中年の男性が立っていた。

「おや、ちょうどよかった。お帰り碧。お友達も一緒みたいだね」

「……お久しぶりです。叔父さん」

 彼は亡くなった母の弟で、僕の叔父にあたる人だ。遠方に住んでおり、母が亡くなってからはこうしてたまに、僕のことを心配して様子を見に来てくれている。

 しかも毎回叔父の奥さんが作ってくれた料理をタッパーに入れて、持ってきてくれる。

 叔父と母は仲が良かったからか、母が亡くなってからは僕のことを気にかけてくれているようだ。

 僕は叔父とは数回しか会ったことがなかったため、正直接し方に悩んでいた。

「シャロン君は面白い子だね。碧と年は変わらなさそうなのに人生経験豊富で驚いたよ」

(……すごい。もう叔父さんと打ち解けてる)

 夕食を一緒に食べている間にシャロンと叔父さんはすっかり意気投合していた。

 ちなみにヤムには僕の部屋にいてもらっている。叔父さんが以前爬虫類が苦手だと言っていたのを思い出したからだ。

「いえいえ、それにしてもここの海はきれいですね。今は冬で閑散としているけど夏は人がたくさん来そうですね」

「昔は人であふれていたそうなんだけどね、今は――」

 叔父さんは苦虫を噛み潰したような顔をしながら話し続けた。

「数年前までは夏になると海水浴客がたくさん来ていたそうなんだけどある年、一人の海水浴客が龍を見たと言いだしたんだ。そのあとも何人も龍を見たと。そのあとすぐ海は封鎖されて調査も行われたけど異常はなかった。今となってはみんな気味悪がって近づかないんだ」

「――龍か、気になりますね」

 シャロンは興味深そうに叔父の話に真剣に耳を傾ける。

「龍なんているわけないよ。みんなして、でたらめな話して変だよ」

 真剣に龍の話を聞いているシャロンの姿に苛立ちを覚え、とっさに否定してしまう。すぐに我に返り、僕は自室に戻った。

『おかえり碧。どうしたんダ?』

 部屋に入るやいなや、ベッドに突っ伏した碧を心配するヤム。

(なんでみんなして、そんなことを言うんだ。あそこは僕の大切な――)




 翌朝、シャロンはいつもの時間になっても起こしに来なかった。もう一度目を覚ますと、十三時を過ぎていた。

(……お腹すいた)

 空腹には抗えずしぶしぶ一階へ降りると、なにやらおいしそうなにおいが漂っていた。

「あっ、やっと起きた!おはよう」

 キッチンでなにやら小鍋をかき混ぜながら、シャロンがこちらに振り向く。どうやら、いいにおいの正体はこの小鍋のようだ。

「ヤムなら先に朝食を食べて、リビングのソファーで二度寝しているから」

 シャロンは昨日のことなどまったく気にしていないのか、いつも通りのテンションで話をする。

「……はよ」

 昨日龍の話で感情的になってしまい、シャロンに八つ当たりしたことに僕は少し気まずさを感じていた。

「あれ、叔父さんは?」

 ふと叔父さんが来ていたことを思い出し、リビングに目をやるも姿が見えなかった。

「叔父さんなら今朝早くに帰ったよ。なんか用事があるみたいで」

 シャロンの言葉に僕は胸をそっと撫で下ろす。なんせ叔父さんが来てからずっと、接し方が分からず緊張しっぱなしだったからだ。

「叔父さん碧のこと心配してたよ。『困ったことがあればいつでも頼っていいんだからね』って。優しい人だね」

 シャロンの話を聞き僕はハッとする。わざわざ次の日に用事があるのにも関わらず心配して会いに来てくれていたのに、僕はお礼の一つも言わず見送りもせず、帰ってくれたことにホッとしていた。なんて傲慢で恩知らずな人間なんだろうと、自分の行動にひどく後悔した。

 立ったまま何も喋らずに俯いてるとシャロンはテーブルに料理を並べていった。箸や食器を手渡され、  僕も一緒に食事の準備をする。

「さあ、お昼にしよう!いただきます‼」

 昨日叔父に教わったばかりの言葉を手を合わせて元気よく言い、食事を口に運んだ。

「……いただきます」

 僕もシャロンに続き手を合わせた。

 テーブルの上には、炊き立ての白飯と熱々の豚汁、少し焦げた卵焼きが並んでいた。

 久しぶりに食卓に並ぶ卵焼きに箸を伸ばす。

「この味――」

 どこか懐かしい味に、僕は目を見開く。

「気づいた?叔父さんに碧の好物聞いたらレシピを教えてくれたんだ」

(甘めの出汁のきいた卵焼き……母さんが作ってくれてたのと一緒だ)

 もう二度と食べれないと思っていた思い出の味に、涙がこみ上げる。

「えっ、違った⁉美味しくない⁉」

 急に泣き出した僕に慌てふためくシャロン。

「――作ってくれてありがとう、シャロン」

 涙を拭いながらお礼を言うと、シャロンは満足げに笑みを浮かべていた。

「しっかりお食べ」

 母が亡くなって以来初めて、誰かと一緒に食事をすることに喜びを感じた。


 食器を片付けながら、シャロンに昨日怒った訳を正直に話した。

「あそこは唯一、家族三人で遊びに行っていた思い出の場所なんだ。だから今こうしてみんなに気味悪がられてるのが、ずっと悲しくて腹が立って……」

「初めて碧と会ったのが朝の早い時間だったのは、人目を避けるためだったんだね」

「そうだよ。いつかまた家族で来れるような気がして、つい海岸に行きたくなるんだ。掃除なんかもしちゃってさ。このままじゃいけないってわかってるんだけど、たぶん気持ちの整理がつかないんだ」

 シャロンは「そっか」とだけ言い、手慣れた様子で静かにふたり分のコーヒーをマグカップに淹れ、テーブルにつく。僕も先ほど座っていた椅子に腰かける。

「碧はお父さんのことどう思ってる?」

 軽くコーヒーをすすった後、シャロンが尋ねてきた。

 僕は少しの間静かに考え込んだ。

 家族をほったらかしにしている無責任な父のことがただ許せないと思っていた。だけど旅に出る前までの父は写真家の仕事で家を空けることはあったが、まったく帰ってこないなんてことはなかったことを思い出す。

 シャロンに海岸のことを話したからか、少し頭の中が整理され父との思い出が鮮明に蘇えってきた。

「――父さんの旅の話が好きだったんだ。旅先で教えてもらった妖精の話とかお化けの話とか、楽しそうに話してくれて、僕も父さんに憧れてた。今は帰ってこなくて腹が立ってるけど、父さんは大事な家族だと思ってる」

 父は確かに家族のことを母や僕のことを愛していた。同時に新しい場所や人との出会いを旅を心から楽しんでいた。父は愛する僕たちの為に、十分な時間をくれていたのだと今ようやくわかった。

「それなら安心してこれを渡せるよ」

 シャロンはそう言って見覚えのあるブレスレットをテーブルの上に置く。

「これってシャロンが探していたブレスレットじゃ――」

「これは碧のお父さんから君に届けるようにと、依頼されたものなんだ」

「でもどうして、僕だってわかったの?」

「昨日叔父さんに君のお父さんの写真を見せてもらって分かったんだよ」

 そう言うと、シャロンは一枚の写真を取り出す。そこには、まだ幼い僕と父と母が写っていた。どうやら、この写真は叔父から預かっていたようだ。

「どうして父さんは直接届けに来てくれないのかな」

 父からのプレゼントに喜ぶも、ふと疑念が湧く。

「碧のお父さんの事情は私には分からないがこれを託された時、彼は家族に会いたがっていたよ。家族が元気に暮らしているか、ずっと心配していた」

 その言葉に碧は目を見開く。そして、胸が熱くなり喉の奥が締め付けられる感覚に襲われた。

 何年も帰ってこない父に怒りを抱いていたが同時に、もう僕たちに会いたくないんじゃないかと、もう忘れられてしまったんじゃないかとずっと思い悩んでいた。

「そっか……父さんが――」

 ちゃんと家族だと思ってくれていたことの嬉しさと会えない寂しさが僕も心で入り乱れ、涙があふれ出す。

「……シャロン、僕に……これを届けに来てくれて、ありがとう」

 震える声でお礼を伝えると、涙を滲ませながらシャロンは静かに微笑んだ。


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