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Sounding Dreams - 再び巡り逢う音 -  作者: 蒼月 美海
限界の先

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第96奏:プレッシャーの始まり

 夏休み。

 新曲制作を開始してから、すでに一週間が経過していた。

 四人は今日も、雅の家にある専用スタジオに集まっている。

 朝10時。

 綾乃、イヴ、琴音が雅の家の門をくぐると、執事の桐生が出迎えてくれた。


「皆様、おはようございます。お嬢様は地下のスタジオでお待ちです」


「おはようございます!」


 三人は挨拶をすると、慣れた足取りで地下へと続く階段を降りていった。

 スタジオの扉を開けると、雅がすでにドラムセットの前に座っていた。


「おはようございます」


 雅が優雅に挨拶する。


「おはよう、雅さん!」


 イヴが元気よく答えると、琴音も小さく「おはようございます」と挨拶した。

 しかし、琴音の表情は暗い。

 綾乃はそれに気づき、少し心配そうな表情を浮かべた。


「それじゃあ、今日も練習を始めようか」


 綾乃の言葉に、四人は楽器を手に取った。


「琴音、新曲の方はどんな感じ?」


 綾乃が優しく尋ねると、琴音は俯いてしまった。


「まだ……形になってなくて……」

 

 琴音の申し訳なさそうな声に、イヴが明るく声をかける。


「大丈夫! まだ時間あるし、焦らなくていいよ!」

 

 イヴの言葉に、琴音は小さく頷いた。

 しかし、その表情はさらに暗くなっているように見えた。

 そして午前中の練習が始まった。

 まずは『欠片の音色』から。

 琴音のキーボードが、儚くも美しいピアノのメロディーを奏で始める。

 綾乃のベースが土台を支え、雅のドラムが力強くリズムを刻む。

 イヴのギターが情熱的に音を重ね、そしてイヴの歌声が響き渡る。

 四人の音が、完璧に調和している。

 演奏が終わると、四人は楽器を置いた。


「……いい感じだね」


 綾乃が満足そうに言うと、イヴも大きく頷いた。


「うん! この曲は、もう完璧!」


「次は『Over the Top』をやりましょう」


 雅の言葉に、四人は再び楽器を構えた。

 綾乃のベースが力強く響き始め、雅のドラムがその激しさを増幅させる。

 琴音のキーボードが、波のように流れるメロディーを奏で、イヴのギターがその上に激しい音を重ねていく。

 そして、イヴが歌い始めた。

 この曲もまた、完璧に演奏できている。

 演奏が終わると、四人は満足そうに頷き合った。


「2曲は、もう問題ないね」


 綾乃の言葉に、イブと雅は頷く。

 しかし、琴音だけは、俯いたままだった。

 既存の曲は完璧に演奏できる。

 でも、新曲ができていない。

 その事実が、琴音を苦しめていた。

 昼食の時間。

 四人はスタジオの一角に置かれたテーブルで、それぞれが持ってきたお弁当を広げた。


「いただきます」


 四人は手を合わせ、食事を始める。

 イヴは元気よくお弁当を食べながら、ふと思い出したように声を上げた。


「そういえば、夏休みの宿題まだ手つけてない!」


 イヴの言葉に、綾乃は苦笑した。


「イヴらしいね」


「えへへ……綾乃ちゃんは、もう終わったの?」


「まだまだ。これから少しずつやっていかないと」


 二人の会話を聞いていた雅が、優雅に口を開いた。


「それでしたら、わたくしの家で宿題会をしませんか?」


「宿題会?」


 イヴが首を傾げると、雅は微笑んだ。


「ええ。みんなで集まって、一緒に宿題をするのです。わからないところは教え合えますし」


「それいいね! 私、数学苦手だから、誰か教えて!」


 イヴが嬉しそうに言うと、綾乃も頷いた。


「いいと思う。琴音もどう?」


 綾乃が琴音に尋ねると、琴音は少し考えた後、小さく頷いた。


「……はい」


 しかし、琴音の心の中では、別の想いが渦巻いていた。


(宿題してる暇あるのかな……新曲、全然できてないのに……でも、みんなが誘ってくれてるのに、断れない……)


 琴音は、自分だけが取り残されているように感じていた。

 そして午後の練習が始まった。

 綾乃が琴音に声をかける。


「琴音、新曲のイメージ、少しでも浮かんでる?」


 綾乃の優しい問いかけに、琴音は申し訳なさそうに俯いた。


「その……まだ何も……」


 琴音の小さな声に、雅が静かに言葉をかけた。


「焦る必要はございませんわ。ゆっくり考えましょう」


 雅の優しい言葉に、琴音は少しだけ救われた気がした。

 しかし、その安心もつかの間だった。

 イヴが前のめりになって言った。


「私たちも手伝えることない? 一緒に考えようよ!」

 

 イヴの善意の申し出。

 しかし、琴音にとっては、それがプレッシャーになってしまう。


「大丈夫です……作曲は私の役割だから……」


 琴音はそう言って、イヴの申し出を断ってしまった。

 イヴは少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに笑顔を作る。


「そっか。でも、困ったらいつでも言ってね!」


「……うん」


 綾乃と雅は顔を見合わせた。

 琴音が、一人で抱え込んでいることは明らかだった。

 しかし、琴音自身がそれを拒んでいる以上、二人は何も言えなかった。


「それじゃあ、今日の練習はここまでにしようか」


 綾乃の提案に、三人は頷く。

 その日の練習を終え、四人はスタジオを出た。

 雅の家の門で、四人は別れる。


「それじゃあ、また明日」


「うん、また明日!」


 イヴと雅が手を振ると、綾乃と琴音も手を振り返した。

 別れ際、綾乃が琴音に声をかける。


「琴音、無理しないでね」


 綾乃の優しい言葉に、琴音は少し驚いた表情を浮かべた後、静かに微笑んだ。


「ありがとうございます、綾乃さん」


 しかし、その笑顔は、どこか無理をしているように見える。

 綾乃は何も言えないままその場で別れ、それぞれの家路に着くのであった。

最後まで読んで頂き、誠にありがとうございます。

よければブックマークとご感想、お待ちしております。


毎日午後5時30分に更新しております。

次回の更新は、第98奏:迷奏、2月3日午後5時30分です。


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