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Sounding Dreams - 再び巡り逢う音 -  作者: 蒼月 美海
限界の先

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第95奏:最高の一曲を

 雅の家の専用スタジオ。

 四人はソファーに座り、本戦に向けた話し合いを始めた。

 テーブルの上には、恵美からもらった本戦の資料が広げられている。


「3曲演奏……ということは、『欠片の音色』と『Over the Top』は確定だよね?」


 イヴが資料を見ながら、三人に尋ねた。


「ええ。あの2曲は、わたくしたちの代表曲ですもの」


 雅が静かに頷くと、琴音と綾乃も同意するように頷いた。


「問題は、残りの1曲……」


 綾乃がそう言うと、四人の表情が真剣なものへと変わる。


「でも、新曲2曲作れば、インパクトがあるんじゃない?」


 イヴが前のめりになって提案した。

 その言葉に、琴音の表情が曇る。


「2曲……2ヶ月で……」


 琴音は不安そうに呟いた。


「2曲を完璧に仕上げるのは、かなりハードなスケジュールですわね」


 雅も冷静に分析する。

 予選の時も、新曲1曲を完成させるのに相当な時間がかかった。

 それを2曲となると、四人の負担は計り知れない。

 特に、作曲を担当する琴音への負担は大きい。


「それでも新曲が1曲だけだと、弱くない? 他のバンドはきっと新曲2曲とか用意してくるんじゃないかな」


 イヴが心配そうに言うと、綾乃は少し考える仕草を見せた。

 しばらくの沈黙の後、綾乃がゆっくりと口を開く。


「……私は、新曲1曲に集中した方がいいと思う」


 綾乃の言葉に、三人は驚いて顔を向けた。


「えっ?  でも綾乃ちゃん……」

 

 イヴが戸惑った表情を浮かべる。


「どうして、ですか?」


 琴音も不思議そうに尋ねた。

 綾乃は三人の顔を見渡すと、静かに立ち上がった。


「中途半端な曲を2曲作るより、最高の1曲を作る方が、私たちらしいと思うから」


 綾乃の言葉に、三人は静かに耳を傾ける。


「量より質。それが私たちのやり方だったよね」


 綾乃はそう言って、三人を見つめた。


「確かに……わたくしたちは、いつも時間をかけて曲を作ってきましたわね」


 雅が静かに頷くと、イヴも考え込むように腕を組んだ。


「うーん……確かに、『欠片の音色』も『Over the Top』も、すごく時間かけて作ったもんね」


 しかし、琴音は不安そうな表情を浮かべている。


「でも……1曲に全てをかけるって、それはそれでプレッシャーが……」


 琴音の震える声に、イヴが彼女の肩を叩いた。


「大丈夫! 私たち四人で作るんだから!」


 イヴの明るい声に、琴音は少しだけ表情を和らげた。

 綾乃はスタジオの中を歩きながら、言葉を続ける。


「私たちには『欠片の音色』と『Over the Top』がある。この2曲は、私たちの始まりと成長を示す曲」


 綾乃は窓の外を見つめた。

 夏の日差しが、スタジオに降り注いでいる。


「そこに、私たちの今を全て込めた新曲を1曲加える。過去、成長、そして現在。それが一番私たちらしい構成なんじゃないかな」


 綾乃の言葉に、イヴの目が輝いた。


「そっか!」


 イヴは勢いよく立ち上がった。


「確かに、それなら私たちの物語が完結する! 始まりがあって、成長があって、そして今がある!」


 イヴの興奮した様子に、雅も静かに微笑んだ。


「わたくしも賛成ですわ。最高の1曲を作りましょう」


 雅は力強く頷いた。

 琴音は三人を見つめ、少し緊張した表情で口を開いた。


「わかりました……頑張って、最高の曲を作ります」


 琴音の言葉に、三人は満足そうに微笑んだ。


「それじゃあ、この新曲のテーマを考えよう」


 綾乃が再びソファーに座ると、四人は顔を寄せ合った。


「私たちの『今』を表現する曲……どんな曲がいいかな?」


 イヴが首を傾げると、雅が少し考える仕草を見せた。


「わたくしたちの今……」


「本戦に向けて、限界に挑戦する……とか?」


 琴音が恐る恐る提案すると、イヴが目を輝かせた。


「それいいね! 限界に挑戦する曲!」


「でも、具体的にどんなメロディーにするか……」


 綾乃が言うと、四人は再び考え込んでしまった。

 テーマは決まったが、具体的なイメージはまだ湧いてこない。

 しばらくの沈黙の後、雅が静かに言った。


「焦る必要はございませんわ。じっくり考えましょう」


雅の落ち着いた声に、三人は頷いた。


「そうだね。今日は既存の2曲を演奏してみよう。それで感覚を確かめよう」


 綾乃の提案に、三人は立ち上がった。

 四人はそれぞれの楽器を手に取る。

 琴音がキーボードの前に座り、綾乃はベースを構え、イヴはギターを持ってマイクの前に立つ。

 雅はドラムセットの前に座った。


「それじゃあ、『欠片の音色』から」


 綾乃の言葉に、琴音が儚くも美しいピアノのメロディーを奏で始めた。

 さらに綾乃のベースが土台を支え、雅のドラムが力強くリズムを刻む。

 イヴのギターが情熱的に音を重ね、そしてイヴの歌声が響き渡る。

 四人の音が、完璧に調和している。

 演奏が終わると、四人は息を整えた。


「……いい感じだね」


 綾乃が満足そうに言うと、三人も頷いた。


「うん。この曲は、もう完璧に弾けるようになったね」


 イヴが嬉しそうに微笑む。


「次は、『Over the Top』をやりましょう」


 雅の言葉に、四人は再び楽器を構えた。

 綾乃のベースが力強く響き始め、雅のドラムがその激しさを増幅させる。

 琴音のキーボードが、波のように流れるメロディーを奏で、イヴのギターがその上に激しい音を重ねていく。

 そして、イヴが歌い始めた。

 限界を超えようとする、熱い想いが込められた歌声。

 この曲もまた、完璧に演奏できている。

 演奏が終わると、四人は顔を見合わせた。


「……既存の2曲は、もう問題ないね」


 綾乃が言うと、三人は安堵したように頷いた。


「うん。あとは新曲だけだね」


 イヴがそう言うと、琴音の表情が再び曇った。

 最高の1曲を作る。

 その重圧が、琴音の肩に重くのしかかっているのが、三人にもわかった。


「……頑張ります」


 琴音は小さくそう呟いた。

 その日の練習を終え、四人はスタジオを出た。

 雅の家の門で、四人は別れる。


「それじゃあ、また明日」


「うん、また明日!」


 イヴと雅が手を振ると、綾乃と琴音も手を振り返した。

 別れ際、綾乃が琴音に声をかける。


「琴音、無理しないでね」


 綾乃の優しい言葉に、琴音は少し驚いた表情を浮かべた後、静かに微笑んだ。


「大丈夫です。ありがとうございます、綾乃さん」


 しかし、その表情は硬い。

 綾乃は少し不安になったが、それ以上は何も言わなかった。

 二人は別れ、それぞれの家路についた。

 自宅に戻った琴音は、自室でキーボードに向かっていた。

 机の上には、ノートとペンが置かれている。

 琴音は何度もキーボードに手を伸ばすが、指は動かない。


「最高の1曲……どんな曲を作れば……」


 琴音は頭を抱えた。

 『欠片の音色』は、四人の出会いを歌った曲。

 『Over the Top』は、限界を超えようとする想いを込めた曲。

 それらを超える曲を作るには、何をテーマにすればいいのか。

 琴音の頭の中は、真っ白だった。


「限界に挑戦する……」


 琴音は呟きながら、キーボードの鍵盤をポツリポツリと叩く。

 しかし、メロディーは生まれてこない。

 焦りが、琴音の心を支配していく。


「みんなに迷惑かけられない……」


 琴音は自分に言い聞かせるように呟いた。


「早く、曲を完成させなきゃ……」


 琴音は再びキーボードに向かうが、何も浮かんでこない。

 時計の針は、容赦なく時を刻んでいく。

 やがて、夜が更けていった。

 一方、綾乃は自室で、ベースを磨きながら琴音のことを考えていた。


「琴音、大丈夫かな……」


 綾乃は不安になる。

 琴音の表情には、明らかなプレッシャーが浮かんでいた。


「……でも、みんなで支え合えば、きっと乗り越えられる」


 綾乃は自分に言い聞かせるように呟いた。

 窓の外を見ると、夏の夜空に星が輝いている。


「最高の1曲……か」


 綾乃は静かに呟いた。

 それは、四人にとって大きな挑戦だ。

 しかし、四人ならきっとできる。

 綾乃はそう信じていた。

 夏の夜空に、星が輝いている。

 そして四人の長い長い挑戦が、今、始まったばかりだった。

最後まで読んで頂き、誠にありがとうございます。

よければブックマークとご感想、お待ちしております。


毎日午後5時30分に更新しております。

次回の更新は、第96奏:プレッシャーの始まり、2月1日午後5時30分です。

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