第94奏:新たなスタートライン
予選通過から数日後。
四人は再び『RESONANCE』を訪れていた。
オーナーの白石恵美から、本戦についての詳しい説明を聞くためだ。
「よく来てくれたわね」
恵美は四人を奥の部屋へと案内した。
そこには、GSG本戦の資料が並べられている。
四人は緊張した面持ちで、テーブルを挟んで恵美の向かいに座った。
「本戦は9月末。残り約2ヶ月ね」
恵美は資料を四人に見せながら説明を始めた。
予選通過の喜びに浸る暇もなく、すぐに本戦への準備が必要だという現実が、四人の肩に重くのしかかる。
「予選では2曲だったけど、本戦では3曲演奏してもらうことになるわ」
「3曲……」
綾乃が呟くと、恵美は頷いた。
イヴと琴音は顔を見合わせ、雅は静かに資料を見つめている。
「ええ。そして、本戦に出場するバンドは全部で12組。その中から、優勝バンド1組が決まるわ。それでGSGのライブに出られるの」
「12組……」
イヴが緊張した表情で呟く。
予選を勝ち抜いた精鋭たちが、12組も集まる。
そのレベルの高さは、想像を絶するものだろう。
「本戦のレベルは、予選とは次元が違うわ。各地区から選ばれた精鋭たちが一つの場所に集まる。技術も、音楽性も、すべてにおいて高いレベルが求められる」
恵美の言葉に、四人の表情が引き締まる。
予選でも十分にレベルが高かった。
それが本戦となれば、どれほどのものなのか。
四人の胸に、期待と不安が入り混じった感情が渦巻く。
「それと……」
恵美は一度言葉を切ると、静かに続けた。
その表情は、どこか申し訳なさそうだ。
「私は、本戦の審査員にはならないわ」
「えっ……!?」
四人は驚いて顔を見合わせた。
予想外の言葉に、四人は言葉を失う。
「どうして……ですか……?」
琴音が不安そうに尋ねると、恵美は静かに微笑んだ。
「GSGの審査員は、毎年違う人が選ばれるの。今年の本戦審査員は、音楽業界の第一線で活躍しているプロデューサーや、有名ミュージシャンたちよ」
恵美は四人の顔を見渡した。
四人の表情には、明らかな動揺が浮かんでいる。
「私が審査員じゃないからって、不安に思う必要はないわ。あなたたちの音楽が本物なら、誰が審査しても認められるはずよ」
恵美の言葉には、確かな説得力がある。
しかし、四人にとって、恵美は特別な存在だ。
初めてライブに出た時、厳しい言葉をくれた人。
そして、予選通過を認めてくれた人。
その恵美が審査員にいないということは、四人にとって大きな不安材料だった。
「……わかりました」
綾乃は静かに頷いた。
動揺を隠しきれない三人を代表して、綾乃が答える。
「それと、もう一つ」
恵美は真剣な表情で四人を見つめた。
「本戦に向けて、新曲を作ることをお勧めするわ。既存の曲だけでも構わないけれど、あなたたちの成長を見せるには、新しい曲が必要だと思う」
「新曲……」
イヴが呟くと、琴音が不安そうな表情を浮かべた。
「3曲演奏するということは……新曲をまた作るんですか……?」
琴音の問いに、恵美は首を振った。
「それは、あなたたちが決めることよ。新曲を2曲、3曲作ってもいいし、1曲だけでもいい。大切なのは、あなたたちがどんな音楽を届けたいか、ということ」
恵美は立ち上がり、窓の外を見つめた。
外には、夏の日差しが降り注いでいる。
「本戦まで2ヶ月。時間は限られているわ。どう使うかは、あなたたち次第よ」
恵美は振り返り、四人を見つめた。
その瞳には、四人への期待と信頼が込められている。
四人は顔を見合わせた。
新曲を何曲作るか。
それは、これからの二ヶ月を左右する、重要な決断だ。
「わかりました。みんなで、話し合ってみます」
綾乃がそう答えると、恵美は満足そうに頷いた。
「期待しているわ。2ヶ月後、また素晴らしい演奏を聴かせてちょうだい」
恵美の言葉に、四人は深々と頭を下げた。
「ありがとうございました」
四人は『RESONANCE』を後にした。
外に出ると、夏の日差しが四人を照らしていた。
蝉の鳴き声が、夏の訪れを告げている。
「……どうする?」
綾乃が三人に尋ねると、イヴが真剣な表情で答えた。
「話し合おう。新曲を何曲作るか、ちゃんと決めなきゃ」
「そうですわね。わたくしの家で話し合いましょう」
雅の提案に、四人は頷いた。
琴音は黙ったまま、不安そうな表情を浮かべている。
新曲を作るのは、琴音の役割だ。
そのプレッシャーが、すでに彼女の肩に重くのしかかっているのが、三人にもわかった。
四人は並んで歩き始めた。
夏の日差しの下、四人の影が長く伸びていく。
本戦まで、残り2ヶ月。
そして『Aura・Notes』の新たな挑戦が、今、始まろうとしていた
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