第91奏:響き渡る音色
ステージへと続く階段を上がる。
一段、一段と上がるたびに、観客のざわめきが大きくなっていく。
心臓が激しく鳴っている。
「……行こう」
綾乃の言葉に、三人は力強く頷いた。
そして四人は、ステージへと踏み出した。
スポットライトが、四人を照らす。
眩しい光に、一瞬目を細めるが、すぐに視界が慣れてくる。
客席には、多くの観客が座っていた。
その視線が、四人に注がれている。
審査員席には、オーナーの白石恵美をはじめ、数人の審査員が座っており、綾乃はステージ全体を見渡した。
(あの日……イヴと琴音と、三人でこのステージに立った)
(あの時は、ドラムもいなくて、凸凹のバンドだった)
(でも、今は違う)
綾乃は、雅の方を見た。
(今は、四人だ)
(信頼できる仲間が、ここにいる)
イヴもまた、このステージを見渡していた。
(あの日、私はオーナーやいろんな人に嘘をついて、迷惑をかけながらこのステージに立った)
(ベースがいないのに、いるって言って……)
(オーナーに叱られて、音楽を認めてもらえなかった)
イヴは、三人の顔を見る。
(でも、今は違う)
(四人で、ちゃんと準備をして、ここに立っている)
(今度こそ、オーナーに認めてもらえる)
そして琴音は客席を見渡しながら、静かに思った。
(あの日、私は緊張で手が震えていた)
(自分の曲が、こんな大勢の人に聴かれるなんて、怖かった)
琴音は、自分の手を見つめる。
(でも、今は違う)
(今は、みんなと一緒)
(一人じゃない)
(だから、怖くない)
四人は、それぞれの場所へと向かう。
綾乃は紺色のベースを構え、イヴは赤色のギターを持ってマイクの前に立つ。
琴音はキーボードの前に座り、雅はドラムセットの前に座った。
イヴはマイクを握り、深呼吸をする。
そして、客席に向かって口を開いた。
「こんにちは! 私たちは『Aura・Notes』です!」
イヴの声が、会場に響き渡る。
「私、ギターボーカルのイヴ! ベースの綾乃! キーボードの琴音! そしてドラムの雅です! よろしくお願いします!」
イヴはそう言って元気よく頭を下げると、他の三人も続いて頭を下げた。
観客から、拍手が起こる。
そして頭を上げた四人は、各々の楽器を構えた。
「それでは、聴いてください。『欠片の音色』」
イヴがそう告げると、四人は顔を見合わせる。
そうして琴音は儚くも美しいピアノのメロディーを奏で始めた。
それは、まるでバラバラになった心のカケラを表現するように、静かで、繊細な音色。
だが、そこに雅のドラムが加わると、曲は徐々に力強さを増していく。
綾乃のベースが、その土台をしっかりと支え、イヴの情熱的なギターが音を重ねていく。
そして、イヴの歌声が響き渡った。
四人の音が、完璧に調和している。
それは、何度も何度も練習を重ねてきた成果だ。
観客は、その演奏に引き込まれていく。
体を揺らす者、じっと聴き入る者。
それぞれが、四人の音楽を受け止めている。
やがて、曲は静かに終わりを迎えた。
最後の音が消えると、会場から拍手が起こる。
四人は息を整えながら、その拍手を受け止めた。
イヴは再びマイクを握る。
「ありがとうございます!」
イヴの言葉に、拍手が少しずつ収まっていく。
イヴは少し間を置いて、客席を見渡した。
「次の曲は、私たちの新曲です!」
その言葉に、観客がざわめく。
「この曲は、私たち四人が出会ってから今まで、たくさんの壁にぶつかって、それでも乗り越えてきた……そんな私たちの物語を歌にしました」
イヴは言い切ると、三人の方へ振り返る。
三人は、静かに頷いた。
「私たちは、もっと高みを目指したい。限界を越えて、頂点を越えていきたい。そんな想いを込めた曲です」
イヴは再び客席を向いた。
「聴いてください、『Over the Top』!」
その言葉と共に、綾乃のベースが力強く響き始めた。
それは、『欠片の音色』とは全く違う、激しく情熱的な音。
雅のドラムが、その激しさをさらに増幅させる。
琴音のキーボードが、波のように流れるメロディーを奏で、イヴのギターがその上に激しい音を重ねていく。
そして、イヴが歌い始めた。
四人の出会い。
それぞれが抱えていた孤独。
でも、音楽が四人を繋いでくれた。
一人では出せなかった音が、四人なら出せる。
バラバラだった音が、一つになっていく。
その喜び、その希望、その勇気。
全てが、この歌に込められていた。
観客も、その熱量に引き込まれていく。
体を揺らし、手拍子をする者も現れた。
サビに入ると、四人の音が一つになる。
それは、まるで大きな波のように、会場を包み込んでいく。
綾乃は、ベースを弾きながら、三人を見つめた。
(これが、私たちの音楽)
(四人だから出せる、この音)
(もう、一人じゃない)
(もう、怖くない)
綾乃の胸に、熱いものが込み上げてくる。
イヴは、全身全霊を込めて歌っている。
(オーナー、見ててください)
(これが、私たちの本当の音楽です)
(嘘じゃない、本物の音楽です)
琴音は、自分の作った曲が、こんなにも多くの人に届いていることに感動していた。
(みんな、聴いてくれてる)
(私の曲を、みんなが聴いてくれてる)
(もう、怖くない)
(みんながいるから)
雅は、ドラムを叩きながら、涙を流していた。
(『Ablaze』で果たせなかった夢を、今、叶える!)
やがて、曲は最高潮に達し、そして静かに終わりを迎えた。
最後の音が消える。
一瞬の静寂。
そして――
割れんばかりの拍手と歓声が、会場を包み込んだ。
四人は、その拍手に圧倒されながらも、深々と頭を下げた。
「ありがとうございました!」
イヴが叫ぶと、拍手はさらに大きくなる。
四人は何度も頭を下げ、そしてステージを降りた。
舞台袖に戻ると、四人は同時に座り込んだ。
「……やり切った」
綾乃が静かに呟くと、三人も頷いた。
「うん……。やり切ったね……」
イヴも疲れ切った表情で微笑む。
「最高でした……」
琴音も涙を流しながら微笑んだ。
「わたくしたち……やりましたわね……」
雅も涙を拭いながら、三人を見つめた。
四人は抱き合い、喜びを分かち合った。
長い道のりの末に、ついにこの舞台で演奏できた。
その達成感が、四人の心を満たしていた。
一方、審査員席では――
オーナーの白石恵美が、満足そうに微笑んでいた。
「……素晴らしかったわね」
恵美は隣の審査員に話しかける。
「ええ。特に新曲、『Over the Top』は印象的でした」
他の審査員も、メモを取りながら頷いていた。
四人の演奏は、確実に審査員の心を掴んでいた。
楽屋に戻ると、四人は椅子に座り込んだ。
緊張が解け、どっと疲れが出る。
「……あとは、結果を待つだけだね」
綾乃が静かに言うと、三人は不安そうな表情を浮かべた。
「受かるかな……」
イヴが不安そうに呟くと、琴音も俯いてしまう。
「大丈夫……ですよね……」
「わたくしたちは、全力を出し切りましたわ。あとは、結果を信じるのみですわ」
雅がそう言って、三人を励ました。
その時、廊下から楽器の音が聞こえてきた。
次のバンドが、ステージに上がったのだ。
「……次は、『Luminous』だね」
綾乃が静かに言うと、四人は顔を見合わせた。
倉本響率いる『Luminous』。
高校生活最後のチャンスに懸ける、彼女たちの演奏が、今、始まろうとしていた。
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