第88奏:言葉に込めた想い
曲が完成してから、数日が経った。
イヴは自分の部屋で、ノートとペンを前に座っている。
机の上には、琴音が作った曲の音源が入ったスマートフォンが置かれていた。
イヴは何度もその音源を聴きながら、歌詞を書こうとしていた。
しかし、ペンは一向に動かない。
「四人のこと、どう表現すればいいんだろう……」
イヴは頭を抱えた。
書きたいことはたくさんある。
綾乃との出会い。
琴音との再会。
雅と出会い、四人でバンドを組んだこと。
でも、それをどう言葉にすればいいのか、わからない。
この前、書きたいとは豪語したものの、実際に言葉にすると歌詞が出てこないことが歯がゆい所。
イヴは目を閉じ、これまでのことを思い返した。
あの日、公園でベースを捨てようとしていた綾乃。
その寂しそうな背中。
でも、今の綾乃は違う。
仲間と共に、音楽を楽しんでいる。
そして琴音。
幼い頃から一緒だった、大切な幼馴染。
引っ込み思案だった彼女が、今では自分の音楽を堂々と表現している。
雅との出会い。
完璧を求め、一人で音楽と向き合っていた彼女。
でも今は、仲間と共に笑顔で音楽を奏でている。
(みんな、変わった)
(そして、私も変わった)
イヴは静かにそう思った。
でも、その想いを言葉にすることができない。
「……難しい」
イヴはため息をついた。
翌日の学校。
休み時間、イヴは綾乃と琴音に相談していた。
「なかなか言葉にできなくて……」
イヴが困った表情で言うと、綾乃は優しく微笑んだ。
「無理に綺麗な言葉にしなくていいんじゃない?」
「え?」
「イヴらしい言葉で書けばいいよ。飾らなくても、イヴの想いが伝わる言葉なら、それが一番いいと思う」
綾乃の言葉に、琴音も頷いた。
「そうだよ、イヴちゃん。イヴちゃんらしい言葉で……それが、一番素敵だと思う……」
二人の励ましに、イヴは少し元気を取り戻した。
「ありがとう、二人とも」
放課後、雅の家のスタジオ。
練習の合間に、イヴは再び歌詞について相談していた。
「雅さんは、私たちの音楽って、どういう音楽だと思う?」
イヴの問いに、雅は少し考える仕草を見せた。
「わたくしたちの音楽……ですか」
雅は静かに目を閉じ、言葉を選ぶように話し始めた。
「わたくしにとって、この音楽は『再生』ですわ。わたくしは一度、音楽を諦めかけました。でも、皆様と出会い、再び音楽の喜びを知ることができましたの」
雅の言葉に、綾乃も口を開いた。
「私にとっては……『希望』かな。私も、音楽を諦めていた。でも、イヴと出会って、もう一度音楽と向き合う勇気をもらった」
琴音も静かに言葉を紡ぐ。
「私にとっては……『勇気』です。一人では何もできなかった私が、みんなと一緒なら、前に進める……」
三人の言葉を聞いて、イヴの胸に、何かが込み上げてきた。
「そうだ……私たちの音楽は、一人じゃ作れなかった」
イヴは立ち上がり、三人を見つめた。
「四人だから作れた音楽なんだ」
その言葉に、三人は静かに頷いた。
「ありがとう、みんな。なんか、見えてきた気がする」
イヴは満面の笑みを浮かべた。
その夜。
イヴは再び、自分の部屋でノートに向かっていた。
しかし、今度はペンがスラスラと動いていく。
四人の出会い。
それぞれが抱えていた孤独。
でも、音楽が四人を繋いでくれた。
一人では出せなかった音が、四人なら出せる。
バラバラだった音が、一つになっていく。
その喜び、その希望、その勇気。
全てが、言葉になっていく。
イヴの手は止まることなく、ノートを埋めていった。
気がつくと、もう深夜になっていた。
「……できた」
イヴはノートを見つめ、静かに微笑んだ。
そこには、四人の物語が綴られていた。
翌日、スタジオ。
イヴは少し緊張した表情で、ノートを三人に見せた。
「……これ、私が書いた歌詞」
三人はノートを手に取り、静かに読み始めた。
綾乃の目が、徐々に潤んでいく。
琴音は涙を流しながら、歌詞を読んでいた。
雅も目を閉じ、何かを噛み締めるように頷いている。
「……これ、すごくいい」
綾乃が震える声で言った。
「本当に……すごく、素敵です……」
琴音も涙声で答える。
「わたくしたちの物語が、ここにございますわね」
雅も静かに微笑んだ。
「それじゃあ、早速歌ってみようか」
綾乃の言葉に、四人は楽器を手に取った。
琴音のキーボードが優しいメロディーを奏で始め、綾乃のベースが土台を支える。
雅のドラムが力強くリズムを刻み、イヴのギターが音を重ねていく。
そして、イヴが歌い始めた。
初めて歌詞を乗せた歌声が、スタジオに響き渡る。
それは、四人の物語。
出会いから、今まで。
そして、これから。
全てが、この歌に込められていた。
曲が終わると、四人は顔を見合わせた。
そして、同時に涙が溢れ出した。
「……完成したね」
綾乃が涙を拭いながら言うと、三人は大きく頷いた。
「うん……! やっと、完成した……!」
イヴも涙を流しながら、嬉しそうに笑った。
「これが……わたくしたちの音楽ですわね」
雅も涙を拭いながら微笑む。
「本当に……最高の曲になりました……」
琴音も感動で言葉にならない。
四人は抱き合い、喜びを分かち合った。
長い時間をかけて作り上げた曲が、ついに完成したのだ。
しばらくして、落ち着いた四人は、カレンダーを見つめた。
予選まで、残り十日。
「あとは、練習あるのみだね」
綾乃の言葉に、三人は力強く頷いた。
「絶対に、予選を突破しよう!」
イヴが拳を握りしめると、三人もそれに続いた。
「「「おー!」」」
完成した曲を胸に、『Aura・Notes』は予選への最終準備に入るのであった。
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