第87奏:流れる音色
海から帰ってきた翌日。
四人は雅の家にある専用スタジオに集まっていた。
「おはよう、みんな」
綾乃が挨拶すると、三人も笑顔で応える。
「おはよう!」
昨日までの疲れた表情とは違い、四人の顔にはリフレッシュした清々しさが溢れていた。
「それじゃあ、早速始めようか。海で気づいたこと、曲に活かそう」
綾乃の言葉に、三人は力強く頷いた。
「あの……その前に」
琴音が恐る恐る手を挙げる。
「昨日の夜、海で気づいたことを元に、曲をアレンジしてみたんです。聴いてもらえますか?」
琴音の言葉に、三人は驚いた表情を浮かべた。
「もう作ったの!?」
イヴが目を丸くすると、琴音は照れくさそうに頷いた。
「はい……。帰ってから、どうしても作りたくなって……」
琴音はスマートフォンを取り出し、音源を流し始めた。
スタジオに、新しいメロディーが響き渡る。
それは、練習していた曲を元にさらに磨きをかけたメロディー。
無理に音を詰め込むのではなく、波のように自然に流れていく。
穏やかで、優しく、それでいて確かな力強さを持っている。
音源が終わると、三人は言葉を失っていた。
「……これだよ、琴音」
綾乃が静かに、しかし力強く言った。
「これが、私たちが求めていた音だよ」
「本当に……すごいです、琴音ちゃん……!」
イヴも感動した様子で言うと、琴音の目に涙が浮かんでいた。
「良かった……。みんなに気に入ってもらえて……」
「素晴らしいですわ、琴音さん。わたくし、この曲でドラムを叩くのが楽しみですわ」
雅も満足そうに微笑んだ。
「それじゃあ、早速合わせてみよう」
綾乃の言葉に、四人は楽器を手に取った。
琴音がキーボードで新しいメロディーを奏で始める。
綾乃は、そのメロディーに合わせて、ベースラインを調整していく。
以前のような速く複雑なラインではなく、もっとシンプルで、自然な流れを意識したベース。
それは、まるで波が砂浜に打ち寄せるように、優しく、それでいて力強い。
イヴのギターも、無理に激しい音を出すのではなく、波のリズムに合わせて、自然に音を重ねていく。
そして雅のドラムが、全体の流れを作り出す。
四人の音が、完璧に調和し始めた。
「……いい感じ!」
イヴが演奏しながら叫ぶ。
「うん……! みんなの音が、自然に流れてる……!」
琴音も嬉しそうに微笑む。
何度も何度も、同じフレーズを繰り返す。
その度に、音は洗練され、磨かれていく。
そして――
「一度、通しで演奏してみようか」
綾乃の提案に、三人は頷いた。
四人は深呼吸をし、楽器を構える。
琴音のキーボードが、優しいメロディーを奏で始めた。
それはまるで、朝の波のように、穏やかで優しい。
そこに綾乃のベースが加わり、曲に深みを与えていく。
イヴのギターが、情熱を込めて音を重ね、雅のドラムが、力強くリズムを刻む。
四人の音が、一つの大きな波となって、スタジオを満たしていく。
曲は徐々に盛り上がり、サビへと向かう。
そこでイヴの歌声が加わった。
まだ歌詞はないが、イヴは「ラララ」とメロディーを口ずさむ。
その歌声が、四人の音楽に命を吹き込んでいく。
やがて、曲は静かに終わりを迎えた。
最後の音が消え、スタジオに静寂が訪れる。
四人は楽器を置き、顔を見合わせた。
「……完成した」
綾乃が静かに呟くと、イヴが飛び跳ねるように喜んだ。
「やったぁ! 曲、完成したよ!」
琴音の目からは、涙がポロポロとこぼれ落ちていた。
「良かった……。本当に、良かった……」
雅も満足そうに微笑みながら、立ち上がった。
「わたくしたちの音楽、最高ですわね」
四人は抱き合い、喜びを分かち合った。
長い間、悩み続けた曲が、ついに完成したのだ。
しばらくして、落ち着いた四人は、ソファーに座った。
「でも……あとは、歌詞だね」
綾乃が言うと、イヴが手を挙げた。
「私、書いてみたいことがあるんだ」
イヴの真剣な表情に、三人は顔を見合わせた。
「どんな歌詞?」
綾乃が尋ねると、イヴは少し照れくさそうに答えた。
「えっとね……私たち四人のこと。出会いから、今まで。そして、これから」
イヴの言葉に、琴音は目を潤ませた。
「素敵です……。その歌詞、聴いてみたいです……」
「わたくしも、楽しみにしておりますわ」
雅も静かに微笑んだ。
「じゃあ、イヴに任せよう」
綾乃がそう言うと、イヴは力強く頷いた。
「うん! 頑張って書くね!」
そして綾乃は、カレンダーを見つめた。
予選まで、残り一週間。
「曲は完成した。あとは、歌詞を完成させて、予選に向けて練習だね」
綾乃の言葉に、三人は決意を新たにした。
「絶対に、予選を突破しよう!」
イヴが拳を握りしめると、三人もそれに続いた。
「「「おー!」」」
新曲が完成し、『Aura・Notes』は新たなステップへと進み始めていた。
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