第85奏:砂浜のハーモニー
海に入った四人は、しばらく波と戯れていた。
イヴは元気いっぱいに泳ぎ回り、琴音は波打ち際で貝殻を拾い、綾乃は静かに海を満喫している。
雅はパラソルの下で、三人の様子を優雅に眺めていた。
「ねえ、みんな! ちょっと待って!」
イヴが突然、砂浜に駆け上がると、自分のバッグをゴソゴソと漁り始めた。
「イヴちゃん、どうしたの?」
琴音が不思議そうに尋ねると、イヴはニヤリと笑いながら、カラフルなビーチボールを取り出した。
「じゃーん! ビーチボール持ってきたんだ! みんなでやろうよ!」
「いいね!」
綾乃も賛成すると、琴音も嬉しそうに頷いた。
「それじゃあ、雅さんも呼ぼう」
三人はパラソルの下で本を読んでいる雅の元へ向かった。
「雅さん、一緒にビーチボールやろうよ!」
イヴが元気いっぱいに誘うと、雅は少し驚いた表情を浮かべた。
「わたくしも……参加してもよろしいですか?」
「もちろん! 一緒に楽しもう!」
イヴの言葉に、雅は静かに微笑むと、本を閉じて立ち上がった。
「それでは、お言葉に甘えて」
四人は波打ち際に集まり、ビーチボールを始めた。
イヴがボールを高く上げると、綾乃がそれを受け取り、琴音へパス。
琴音は少し緊張した様子でボールを打つが、雅が優雅にそれをキャッチした。
「雅さん、上手!」
イヴが驚いて言うと、雅は少し照れくさそうに微笑む。
「ありがとうございます。球技は、それなりに経験がございますので」
「じゃあ、もっと本気でいくよ!」
イヴが張り切ってボールを打つと、それは勢いよく飛んでいき――
「あっ!」
ボールは四人の輪から大きく外れ、遠くの砂浜に転がっていった。
「イヴちゃん、力入れすぎだよ!」
綾乃が笑いながら言うと、イヴは頭を掻きながら照れ笑いを浮かべた。
「えへへ、ごめんごめん!」
四人は笑い合いながら、ボールを追いかける。
最初は遠慮がちだった琴音も、徐々に楽しそうにボールを追いかけるようになった。
雅も普段の上品な佇まいとは違い、積極的にボールに飛びついている。
そんな四人の姿は、まるで昔からの友人のようだった。
しばらくビーチボールを楽しんだ後、イヴがお腹を押さえた。
「お腹空いた……!」
「そういえば、もうお昼過ぎてるね」
綾乃が時計を確認すると、すでに午後一時を回っていた。
「それじゃあ、海の家でご飯にしようか」
四人は海の家へと向かった。
メニューを眺めながら、それぞれ好きなものを注文する。
イヴは焼きそば、琴音はカレーライス、綾乃はラーメン、そして雅はかき氷を注文した。
「雅さん、ご飯じゃなくてかき氷でいいの?」
イヴが不思議そうに尋ねると、雅は微笑んだ。
「ええ。実は、海の家のかき氷というものを、一度食べてみたかったんですの」
「そうなんだ! じゃあ、私の焼きそばも少し食べる?」
「よろしいのですか?」
「もちろん!」
やがて、注文した料理が運ばれてきた。
四人はそれぞれの料理を前に、「いただきます」と手を合わせる。
「美味しい……!」
イヴが焼きそばを頬張りながら言うと、琴音も静かにカレーを食べている。
綾乃はラーメンをすすりながら、海を眺めていた。
雅はかき氷をスプーンですくい、口に運ぶ。
「……美味しいですわ」
雅の目が、驚きと喜びで輝いていた。
「海の家のかき氷、こんなに美味しいものなのですね」
「でしょ? 海で食べるご飯って、なんか特別美味しいんだよね」
イヴが満面の笑みで言うと、四人は笑い合った。
食事を終え、しばらく休憩した後、イヴが立ち上がった。
「それじゃあ、雅さん! 泳ぎの特訓、始めよう!」
「はい……! お願いしますわ」
雅は少し緊張した表情で頷いた。
四人は浅瀬へと向かう。
「じゃあ、まずは水に慣れるところからね」
イヴが先生のように言うと、雅は静かに頷いた。
「大丈夫ですわ。頑張りますわ」
イヴは雅の手を取り、ゆっくりと海の中へ導いていく。
綾乃と琴音も、雅の両脇でサポートする。
「まずは、顔を水につけてみようか」
イヴの言葉に、雅は少し躊躇したが、意を決して顔を水につけた。
すぐに顔を上げると、雅は少し息を荒くしている。
「大丈夫……ですわ」
「無理しないでね、雅さん」
琴音が優しく声をかけると、雅は微笑んだ。
「ありがとうございます。でも、わたくし、泳げるようになりたいんですの」
その真剣な眼差しに、三人は静かに頷いた。
「それじゃあ、次は浮く練習ね」
イヴは雅の体を支えながら、ゆっくりと水に浮かせていく。
「怖い……ですわ……」
雅の声が震えている。
「大丈夫! 私たちがついてるから!」
イヴが力強く言うと、綾乃も声をかけた。
「雅、力を抜いて。体を水に任せるイメージで」
綾乃の冷静なアドバイスに、雅は深呼吸をし、体の力を抜いていく。
すると、雅の体がゆっくりと水に浮き始めた。
「浮いてる……! 雅さん、浮いてるよ!」
琴音が嬉しそうに言うと、雅は驚いた表情を浮かべた。
「本当ですか……?」
「うん! このまま、手を動かしてみて」
イヴの指示に従い、雅は手を動かし始める。
最初はぎこちなかったが、徐々に動きが滑らかになっていく。
「できてる……! できてますわ……!」
雅の声が、喜びで震えている。
そして、イヴがゆっくりと手を離すと――
雅は自分の力だけで、短い距離を泳ぎ切った。
「やった……!」
イヴが飛び跳ねるように喜ぶ。
「すごいです、雅さん……!」
琴音も嬉しそうに拍手をする。
綾乃も静かに微笑みながら、雅に声をかけた。
「おめでとう、雅さん」
雅は立ち上がると、三人を見つめた。
「……ありがとうございます。本当に、ありがとうございます」
雅の言葉に、三人は顔を見合わせて微笑んだ。
「雅さん、泳げるようになったね!」
イヴが満面の笑みで言うと、雅は涙を拭いながら頷いた。
「ええ……。皆様のおかげですわ」
四人は抱き合い、喜びを分かち合った。
それは、音楽とは違う、でも確かに存在する、四人の絆を感じる瞬間だった。
やがて、夕方が近づいてきた。
疲れた四人は、パラソルの下で休憩している。
「今日は……楽しかったね」
綾乃が静かに呟くと、三人は大きく頷いた。
「うん! すごく楽しかった!」
「わたくしも……こんなに楽しい一日は、初めてですわ」
雅が幸せそうに微笑む。
四人は夕日を眺めながら、静かな時間を過ごした。
オレンジ色に染まる海と空。
その美しい景色の中で、四人は明日への期待を胸に抱いていた。
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