第84奏:波音への誘い
翌日の朝。
綾乃は、駅前の待ち合わせ場所に到着した。
すでにイヴが、大きなバッグを抱えて待っている。
「綾乃ちゃん、おはよう!」
イヴは満面の笑みで手を振った。
「おはよう、イヴ。早いね」
「うん! 楽しみすぎて、朝早く目が覚めちゃった!」
イヴは興奮した様子でバッグを揺らす。
その時、琴音が小走りでやってきた。
「おはようございます……! 遅れてすみません……!」
「大丈夫だよ、琴音ちゃん。まだ時間あるし」
イヴがそう言うと、琴音は安堵したように息をついた。
「それにしても、雅さん、まだかな?」
綾乃がそう言った瞬間、後ろから優雅な声が聞こえてきた。
「お待たせいたしましたわ」
三人が振り返ると、そこには白いワンピースに麦わら帽子を被った雅の姿があった。
まるで雑誌から飛び出してきたかのような、洗練された装い。
「雅さん、すごい! モデルさんみたい!」
イヴが目を輝かせると、雅は優雅に微笑んだ。
「ありがとうございます。海に行くのは久しぶりですので、少し張り切ってしまいましたわ」
「それじゃあ、行こうか」
綾乃の言葉に、四人は駅のホームへと向かった。
電車の中。
四人はボックス席に座り、それぞれの期待を語り合っている。
「海、久しぶり! 楽しみ!」
イヴが窓の外を眺めながら、興奮した様子で言った。
「私、あまり海に行ったことなくて……」
琴音が少し不安そうに呟くと、イヴが彼女の肩を叩いた。
「大丈夫! 一緒に楽しもうよ!」
「わたくしも、友人と海に行くのは初めてですわ」
雅がそう言うと、三人は驚いたように顔を見合わせた。
「えっ、雅さん、海に行ったことないの?」
イヴが尋ねると、雅は静かに首を振った。
「いえ、海には何度か行ったことはありますわ。ですが、友人と一緒に、というのは初めてですの」
「そうなんだ……」
綾乃は少し意外そうな表情を浮かべた。
「それに……」
雅は少し恥ずかしそうに俯く。
「実は、わたくし、泳げませんの」
「「「えっ!?」」」
三人は驚きの声を上げた。
「泳げないんですか!?」
琴音が信じられないという表情で尋ねると、雅は静かに頷いた。
「ええ。お嬢様教育では、海で泳ぐことはありませんでしたの。プールでの水泳の授業はございましたが……海は初めてですわ」
「じゃあ、今日教えてあげる!」
イヴが目を輝かせて言うと、雅は少し緊張した表情を浮かべた。
「本当ですか?……でも、わたくし、泳ぐのは得意ではありませんのよ?」
「大丈夫! 私に任せて!」
イヴの力強い言葉に、雅は安心したように微笑んだ。
綾乃は窓の外を眺めながら、静かに考え事をしていた。
(海か……。久しぶりだな)
やがて、電車は海の最寄り駅に到着した。
駅を降りると、潮の香りが四人を包み込む。
「わぁ……! 海の匂い!」
イヴが大きく深呼吸をすると、琴音も真似をして深呼吸をした。
「本当だ……。海の匂いがする……」
四人は砂浜へと続く道を歩いていく。
やがて、目の前に青い海と白い砂浜が広がった。
「うわぁ……!」
イヴが感動して走り出す。
琴音も静かに海の美しさに見入っている。
雅は優雅に麦わら帽子を押さえながら、海を眺めていた。
綾乃は波の音に耳を澄ませる。
ーーザザーン……ザザーン……ーー
規則正しく打ち寄せる波の音が、心地よく響いている。
「それじゃあ、着替えようか」
綾乃の言葉に、四人は海の家へと向かった。
更衣室で着替えを終え、四人はそれぞれの水着姿で現れた。
イヴは明るいオレンジ色のビキニ。
活発な彼女の印象にぴったりの、元気な色合い。
琴音は淡いパステルピンクのワンピース型の水着。
控えめだが、彼女の優しい雰囲気に合った可愛らしいデザイン。
雅は深い紺色のワンピース型の水着。
上品で洗練されたデザインが、彼女の気品を際立たせている。
そして綾乃は、シンプルな黒のビキニ。
飾り気はないが、彼女のクールな雰囲気によく似合っている。
「みんな、似合ってるね!」
イヴが嬉しそうに言うと、琴音は少し照れくさそうに俯いた。
「それじゃあ、行こうか」
綾乃の言葉に、四人は砂浜へと向かった。
イヴが真っ先に海に飛び込む。
「うわぁ! 気持ちいい!」
琴音は恐る恐る波打ち際に足を入れた。
「冷たい……でも、気持ちいいです……」
雅はパラソルの下で、四人のために借りたレジャーシートに座り、三人の様子を見守っている。
綾乃は波打ち際をゆっくりと歩いていた。
波が足元に打ち寄せ、また引いていく。
その繰り返しを眺めながら、綾乃は何かを感じていた。
「綾乃ちゃんも来なよ!」
イヴが手を振りながら呼びかける。
綾乃は静かに微笑むと、ゆっくりと海に入っていった。
冷たい海水が、疲れた体を癒していく。
「今日は、音楽のこと忘れて楽しもう」
綾乃の言葉に、三人は笑顔で頷いた。
日常を忘れて、ただ海を楽しむ時間が始まろうとしていた。
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