第83奏:行き詰まりの音色
新曲制作を始めてから、二週間が経った。
四人は雅の家にある専用スタジオで、連日練習を重ねている。
「それじゃあ、もう一度通しでやってみよう」
綾乃の言葉に、四人は楽器を構えた。
琴音のキーボードが優しいメロディーを奏で始め、綾乃のベースが土台を支える。
そこにイヴのギターと雅のドラムが重なり、曲が進んでいく。
しかし――
「……ごめん、また間違えた」
イヴが申し訳なさそうに演奏を止めた。
サビ前の難しいフレーズで、またミスをしてしまったのだ。
「大丈夫。もう一回やろう」
綾乃はそう言って、再び演奏を始める。
だが、今度は綾乃自身が、速いテンポのベースラインについていけず、音を外してしまった。
「……ごめん」
綾乃も申し訳なさそうに演奏を止める。
「もう一度、最初から」
雅の言葉に、四人は再び演奏を始めた。
しかし、今度は琴音が途中で手を止めてしまう。
「……ごめんなさい。どうしても、感情が乗せられなくて……」
琴音は自分が作った曲なのに、上手く弾けない自分に歯痒さを感じていた。
「……休憩しましょうか」
雅がそう提案すると、四人は楽器を置いた。
スタジオの隅に置かれたソファーに座り、四人は沈黙に包まれる。
誰も言葉を発することができない。
重い空気が、スタジオを支配していた。
イヴは自分のギターを見つめながら、唇を噛みしめている。
(どうして弾けないんだろう……。何度練習しても、このフレーズが上手くいかない)
琴音は自分の手を見つめながら、不安に駆られていた。
(自分で作った曲なのに……。みんなに迷惑をかけてる……)
綾乃もまた、自分のベースを見つめながら焦燥感を感じていた。
(このままじゃ、完成しない。予選まで、もう2週間しかないのに……)
そして雅は、三人の様子を見ながら、静かに考えていた。
(このままでは、みんなが潰れてしまう……。何か、打開策はないものか……)
時計の秒針の音だけが、静かに響いている。
それは、焦りを煽るように、規則正しく時を刻んでいた。
しばらくの沈黙の後、綾乃がゆっくりと顔を上げた。
「……ねえ」
綾乃の声に、三人が顔を向ける。
「海、行かない?」
「……え?」
突然の提案に、三人は目を丸くした。
「海……?」
イヴが不思議そうに聞き返すと、綾乃は静かに頷いた。
「うん。このままじゃ、煮詰まっちゃう。気分転換に、海に行こう」
綾乃の言葉に、イヴは少し考える仕草を見せた後、パッと表情を明るくした。
「それ、いいかも! 私、海、大好き!」
「でも……練習は……」
琴音が不安そうに呟くと、綾乃は優しく微笑んだ。
「大丈夫。ずっと練習してても、上手くいかない時もある。たまには気分転換も必要だよ」
「それも、良い考えですわね」
雅も綾乃の提案に賛同した。
「確かに、このまま無理に練習を続けても、良い結果は生まれませんわ。海で気分転換をして、また新たな気持ちで曲に向き合いましょう」
雅の言葉に、琴音も少しずつ表情を和らげていく。
「……わかりました。海、行きましょう」
琴音がそう言うと、イヴは嬉しそうに飛び跳ねた。
「やったぁ! 久しぶりの海だ!」
「それじゃあ、明日、みんなで海に行こう」
綾乃の言葉に、三人は大きく頷いた。
その日の練習は早めに切り上げ、四人はそれぞれの家路についた。
綾乃は夜空を見上げながら、静かに呟く。
(海で、何か見つけられるかもしれない)
新たな展開への予感が、綾乃の胸に広がっていた。
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