第80奏:審判の音色
四人はステージに上がると、それぞれの楽器を手に取った。
綾乃は紺色のベースを、イヴは赤色のギターを、琴音はキーボードの前に座り、そして雅はドラムセットの前に座る。
客席には、オーナーの白石恵美と店長の神崎凛が座っていた。
「……うぅ、緊張する」
イヴが小さく呟くと、綾乃が優しく微笑む。
「大丈夫。いつも通りやろう」
「うん……!」
そして四人は顔を見合わせ、静かに頷いた。
イヴはマイクの前に立つと、深く息を吸い込んだ。
「それでは、私たちの曲『欠片の音色』を聴いてください」
(この曲は、私たちが初めて四人で創り上げた、大切な曲)
(バラバラだった私たちの音が、一つになった証)
(だから、この曲でオーナーに、私たちの絆を見せたい)
イヴの心の声に応えるように、琴音が儚くも美しいピアノのメロディーを奏で始めた。
それは、まるでバラバラになった心のカケラを表現するように、静かで、繊細な音色。
だが、そこに雅のドラムが加わると、曲は徐々に力強さを増していく。
イヴの情熱的なギター、綾乃の温かいベースが重なり、それぞれの『カケラ』が一つになっていく。
文化祭で披露したこの曲は、さらに磨きがかかり、四人の絆を表現するかのように、美しく響き渡った。
恵美は静かに目を閉じ、四人の音楽に耳を傾けている。
その表情は真剣そのものだ。
やがて、曲が終わり、ステージに静寂が訪れる。
四人は息を整えながら、恵美の反応を待った。
しばらくの沈黙の後、恵美はゆっくりと目を開けた。
「……素晴らしかったわ」
その言葉に、四人は顔を見合わせる。
「あなたたち、本当に成長したのね。あの日とは、まるで違う。一人一人の音が、しっかりと響いていたわ」
恵美はそう言って、静かに立ち上がった。
「特に……」
恵美は雅の方を見つめる。
「ドラムの子。あなた、どこかで見たことがあるわね」
雅は少し驚いた表情を見せたが、すぐに静かに頷いた。
「……はい。わたくしは以前、『Ablaze』というバンドでドラムを担当しておりました」
「『Ablaze』、……ここで解散ライブをしたわね」
恵美の言葉に、雅は少し寂しそうな表情を浮かべる。
「ええ。あの時、わたくしは意地を張って、最後のライブに間に合わず……」
「でも、最後にはステージに立ったわよね。あの時のドラム、とても印象的だったわ」
恵美はそう言って、雅に微笑みかけた。
「そして今、あなたは新しい仲間と、新しい音楽を奏でている。それは、とても素晴らしいことよ」
雅の目から、静かに涙がこぼれ落ちた。
「……ありがとうございます」
恵美は再び四人の方を向くと、静かに言った。
「GSGの予選への出場、認めるわ」
「本当ですか!?」
イヴが喜びの声を上げる。
「ええ。ただし……」
恵美は真剣な表情で四人を見つめた。
「予選は甘くないわよ。この地区周辺から、実力のあるバンドが集まってくる。あなたたちが今日見せてくれた音楽、それをさらに磨き上げなさい」
「はい!」
四人は力強く答えた。
「それと……」
恵美は少し考える仕草を見せた後、口を開いた。
「予選は7月の最終週。つまり、あと一ヶ月しかないわ」
そして恵美は、四人の目をまっすぐに見つめた。
「『欠片の音色』、あの曲はとても素晴らしい曲だわ。でも、予選では二曲演奏することになる。既存の曲で二曲披露しても構わないけれど……」
恵美は一度言葉を切ると、さらに真剣な表情になる。
「新曲を作りなさい」
「……新曲、ですか?」
「ええ、GSG予選の審査員には、私も含まれている。だからね、あなたたちの音楽で、私の心を震わせてちょうだい。それができれば、必ず次のステージに進めるわ」
「わかりました……! 頑張ります……!」
琴音は決意を込めて答えた。
「それじゃあ、頑張りなさい。あなたたちの成長を、楽しみにしているわ」
恵美はそう言って、優しく微笑んだ。
四人はステージを降りると、ライブハウスを後にした。
外に出ると、夕日が四人を照らしている。
「やった……! オーナーに認められた……!」
イヴが飛び跳ねるように喜ぶ。
「うん……! これで、予選に出られる……!」
琴音も嬉しそうに微笑む。
「でも、新曲を作らないと……」
綾乃が少し不安そうに呟くと、雅が力強く頷いた。
「大丈夫ですわ。わたくしたちなら、必ず素晴らしい曲を創り上げられますわ」
その言葉に、三人も頷く。
「よし! じゃあ、明日から早速練習だね!」
イヴの言葉に、四人は顔を見合わせて微笑んだ。
そしてGSGの予選に向けて、『Aura・Notes』の新たな挑戦が始まろうとしていた。
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