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Sounding Dreams - 再び巡り逢う音 -  作者: 蒼月 美海
三つの音、一つのメロディ
8/35

第7奏:五線譜に記された空白

 ライブ当日。

 学校の授業が終わり、放課後となった綾乃はまっすぐに自宅へ帰るつもりだった。

 しかし、足は勝手に公園へと向かってしまう。

 公園に着くと、葉桜の木々の下にあるベンチに座った。

 いつもなら、この場所でイヴが明るい笑顔で待っていて、ギターの練習が始まる時間。

 しかし、そこにイヴの姿はない。

 あるのは、風に揺れる若葉の音と寂しい静けさだけ。


「……バカみたい」


 綾乃は、自嘲気味に呟いた。

 ライブは今日の夕方6時半から、今の時刻は午後5時半頃。

 イヴは今頃ライブハウスにいるはずだ。そんなこと、分かっているはずなのに。

 綾乃は両手で顔を覆った。

 なぜ、自分はこんなにも弱いのだろう。

 なぜ、あの時、素直になれなかったのだろう。

 すると、綾乃の背後から一人の少女が近づく。


「君、いつも金髪の女の子と楽器弾いてた子だよね?」


 綾乃は背後から落ち着いた声で話しかけてくる声に驚き、振り返ると、そこに立っていたのはギターケースを背中に背負った小柄な少女が立っていた。

 黒いポニーテールに、切れ長の目が印象的である。


「……誰?」


 綾乃は警戒しながら尋ねた。

 いきなり話しかけられたことに、綾乃は目を細める。


「私は倉本響。いつもこの公園を通る時、貴女達が楽器の練習してるを見てたよ」


 響と名乗る少女は、そう言って微笑んだ。

 彼女は綾乃の手元をじっと見つめる。


「君はベースがすごく上手そうだね」


 驚いて言葉が出ない綾乃に、軽く笑いながら響は話を続けた。


「その指を見れば、よく分かるよ」


 響は綾乃の指を差しながら言う。

 綾乃は戸惑いながらも、自身の指を見た。

 指には豆がいくつも出来ており、硬くなっている。


「私たちは君を()()()()として見てる。あの金髪の女の子の歌声、すごくよかったから。いつか、大きなステージで対バンが出来たらいいな」


 その言葉に、綾乃の心が揺れた。

 ()()()()

 自分はもう音楽から降りたはずなのに、何故、いきなり言われた言葉に心が揺れるのだろう。


「君のベース、また聞かせてよ。私たちのステージで。最高の演奏をしてくれるのを楽しみに待ってるから」


 響はそう言い残すと、綾乃に背を向け、その場から去った。

  彼女の言葉はまるで綾乃の心を突き刺す、鋭い音符のよう。

 綾乃はもう一度、紺色のベースを思い浮かべた。

 ここにはもう、ベースはない。

 だが、綾乃の心の中には、確かにその音色が鳴り響いている。

 綾乃は立ち上がり、公園を出る。

 行き先は、イヴたちが出演するライブハウス。

 五線譜には空白を残したままであるが、止まっていた彼女の時間が、今、再び動き始める。

最後まで読んで頂き、誠にありがとうございます。

よければブックマークとご感想、お待ちしております。


毎日午後5時30分に更新しております。

次回の更新は8月24日日曜日午後5時30分です。

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