第65奏:三本の弦の旋律
ーーバツンッ!ーー
という、大きな音で綾乃のベースの4弦は切れてしまった。
しかし、雅はドラムを叩き続けている。
止まる気配はない。
綾乃は一瞬戸惑ったが、すぐに冷静になった。
そして残りの1弦から3弦までのペグを急いで引き締め、チューニングし直しす。
使える弦は三本だけ。
限られた音の中で、どうすれば雅のドラムに応えられるか。
指がこれまでにはなかった独自のベースラインを紡ぎ始める。
それはこれまで綾乃が弾いてきたどんな曲よりも独創的で、彼女の感情がそのまま音になったようだ。
すると、雅は最初の時はその異変に気づかなかった。
しかし、やがて綾乃のベースから聞こえる音が、先ほどとは違うことに気づく。
(……音が、少ない?)
だが、その分、一つ一つの音が深く、力強い。
雅は綾乃の方に目を向けると、そこには三本の弦だけでベースを奏でている彼女がいたのだ。
それはアクシデントなのだと理解したが、綾乃はこの状況を乗り越え、自分に音楽で応えようとしている。
そして雅はニヤリと笑った。
綾乃の音楽に応えるように、さらに熱の入ったドラムを叩く。
そうして二人のセッションは、互いの魂をぶつけ合うようにして、最高潮に達した。
それはスタジオの空気が震えるほどに。
やがて、二人の演奏は同時に止まった。
雅は汗だくになりながらも、満面の笑みで綾乃を見つめる。
「……素晴らしいですわ、綾乃さん。わたくし、貴女が切れた弦で、あそこまでの演奏をすると想像だにしませんでした」
そして雅は立ち上がると、綾乃の前に立ち、手を差し出す。
「わたくしを貴女方のバンドに、正式に加入させていただきますわ」
雅の言葉に、綾乃の目から嬉し涙が浮かぶのであった。
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