第63奏:セッション開始
リムジンが停まると、雅は綾乃を大豪邸の中へと案内する。
広い玄関ホールは、まるで美術館のようだ。
大理石の床、天井まで届く大きな窓、そして壁には見たこともない高価な絵画が飾られている。
次々と現れる使用人たちが二人に対して深々と頭を下げる姿に、綾乃は圧倒された。
「どうぞ、こちらへ」
雅は綾乃を地下へと続く階段へに行くように促す。
階段を下りると、そこには防音設備が施された重厚な扉があった。
そして雅が鍵を開けると、綾乃の想像をはるかに超える空間が広がっていたのだ。
「ここは、わたくし専用のスタジオですわ」
目の前に最新のレコーディング機材や壁一面に並べられた高級なギター、ベース、そして見たこともない珍しい楽器の数々。
中央にはいくつものシンバルとタムが組み合わされた、巨大なドラムセットが鎮座していた。
「……すごい」
綾乃は思わず声が漏らしてしまう。
すると、雅はドラムセットに座り、ドラムスティックを持ったまま自信に満ちた表情で綾乃に言い放った。
「さあ、わたくしを満足させてくださいまし!」
その言葉に綾乃はハッとして、自分のベースを準備する。
言葉はいらない。
二人は言葉ではなく、音で語り合い始める。
雅の力強く、しかし繊細なドラムのリズムが、スタジオに響き渡った。
その音に導かれるように、綾乃は感情のこもったベースを奏でる。
二つの音が重なり合い、一つの音楽となっていく。
それは、まるで二人の心が通じ合った瞬間だった。
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