第58話:最後のアンコール
綾乃と共にライブハウス『RESONANCE』に戻った少女は、急いで自分の楽屋へ向かった。
(今から衣装を出して、着替えて……くっ、ライブまでに間に合うかしら!)
少女は唇を噛み締めながら、思考を巡らせる。
ライブには出るつもりはなかったが、衣装はバンド仲間の一人がまとめて持ってくるため、おそらく持ってきているはず。
しかし、今から衣装を出して、アクセサリーをつけたり着替えたりして、ライブに間に合うのか不安が募る。
「……あっ」
そして楽屋に入ると、目の前の光景に少女は目を疑った。
自分の衣装が目の前に飾られている。
そして衣装の近くにあるテーブルの上にはアクセサリーが置いてあり、その上に手紙が置いてあった。
少女はその手紙を手に取って読み始めると、その中にはたった一言。
ーーステージで待ってる。ーー
それだけ書かれていた。
少女は手紙をそっと閉じ、仮面を手にとる。
「……わたくしには、もう何も残っていないと思ってましたわ。でも、それでも待ってくれている人がいる。……わかりましたわ」
そして少女は仮面をつけ、衣装を身につけた。
これが『Ablaze』にとって、最後の曲を演奏になるだろう。
着替え終わった少女は楽屋の扉の前に立ち、ドアノブを掴む。
「わたくし、九条雅が今、参りますわ!」
雅はそう言って、意気揚々と楽屋の扉を開けた。
しかし、時間は刻一刻とすぎていく。
もう、『Ablaze』は最後の曲を演奏していたのだ。
その最中、ギターとベースは、ステージの袖に立つ雅の姿に気づいた。
そこにボーカルも雅の存在に気づく。
そして『Ablaze』のメンバー全員は顔を見合わせ、雅にバトンを繋げるべく、最後の曲を力強く演奏し続けた。
ライブハウスの観客は、それに続くように『Ablaze』の最後の曲に熱狂する。
だが、イヴと琴音はそれどころではなかった。
「……綾乃ちゃん、どこ行ったんだろう」
「綾乃さん、急にいなくなったけど、大丈夫かな……」
イヴと琴音は心配そうに客席を見回していた。
そして最後の音が鳴り終わり、ステージが暗転する。
ーー……アンコール!ーー
ーーアンコール! アンコール! アンコール!ーー
1人の声を皮切りに、観客から割れんばかりのアンコールが響き渡る。
その声に応えるように、再び照明が灯り、そこには雅がドラムセットの前に座っていた。
観客は突然現れた雅の姿にに、一瞬戸惑いを覚えたが、すぐに熱狂的な喝采を送る。
最初にボーカルから来れなくなったと言われたドラムが今、目の前にいるからだ。
すると、雅は深呼吸をし、ドラムスティックを握りしめる。
そして全身全霊を込めたソロドラムを叩き始めた。
その圧倒的な演奏に、観客はもちろん、イヴと琴音もただただ驚き、ステージに釘付けになっていたのだ。
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