第57奏:最後のドラム
ライブハウス『Sound Nest』の裏で綾乃と雅は向き合っていた。
そして先に沈黙を破ったのは綾乃である。
「……あの時、高みを目指すって、言ったじゃないですか」
綾乃は少女に突きつけるように言い、言葉を続けた。
「貴女は一人で高みを目指すって言ったから、私たちも私たちの音で最高の音楽を創ろうって、決めたんです。なのに、どうして、あなたはステージに立たないんですか……!」
しかし、少女は綾乃の言葉に、苦しそうな表情で顔を歪める。
「……わたくしは、もう、ドラムを叩くのが怖いのですわ」
少女は震える声でそう告白をし、カタカタと肩を揺らし始めた。
「あの時……わたくしがあなたにバンドに誘われた日、わたくしは成長しない自分自身への怒りで、ドラムを叩いていましたの。どれだけ練習しても、どれだけ高みを目指しても、完璧な音には届かない。その焦燥感にわたくしは、もう耐えられないのですわ……!」
そして最後まで言い切ると、少女はその場にうずくまってしまう。
綾乃は少女の言葉に胸が締め付けられるようだった。
しかし、綾乃の気持ちは決して諦めない。
「もう一度、あなたのドラムが聞きたい」
綾乃はそう言うと、少女のドラムスティックをリュックサックから取り出し、彼女の前に差し出した。
「貴女は自分のドラムは完璧ではないと言いましたよね。でも、貴女のドラムで私たちは変わったんです。貴女の音楽で、私たちの心を突き動かしたんです!」
綾乃の心の底からの想いに、蹲っていた少女の瞳は揺れ動く。
「……わたくしは……」
少女は顔を上げ、震える手で綾乃の手からドラムスティックを受け取った。
「……行きましょう」
そして綾乃は少女の手を握りしめ、ライブハウス『RESONANCE』へと走り出す。
二人がライブハウスに戻った時、『Ablaze』はまだ演奏中のようだ。
しかし、現在の時刻から見て、おそらくそろそろライブが終わる。
少女は綾乃の言葉を胸に、仮面や衣装を準備するために、足早で楽屋へと向かうのであった。
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