第55奏:四つ目の音
美月の計らいで、『Ablaze』のライブ映像を見れた琴音は、創作意欲を掻き立てられていた。
ライブハウスを出た後、琴音は新曲の制作のために自宅へ帰宅する。
そして作曲作りに没頭し、気づけば朝になっていた。
しかし、その甲斐もあり曲は完成したのだ。
それは三人では表現しきれない、もう一つの音を求めるような、力強くも切ない曲。
琴音は眠らずに作曲をしていたため、身体はフラフラであったが、それでも1秒でも早く二人に聴かせたいと思い、身体に鼓舞をかける。
学校に着くと、琴音は綾乃とイヴを呼び出した。
「曲……できました……!」
その言葉に二人は目を見開いて驚いた。
「もうできたの!?」
イヴの驚いた声に琴音はゆっくりと頷く。
綾乃もその声に目を見開いて驚いていた。
それは、琴音は作曲するのが早い。
あまりにも早すぎるのだ。
以前も作曲をしたと思ったら、半日で完成させたり、琴音の作曲する早さは常人離れをしている。
「ねぇ、早く聴きたい! 綾乃ちゃんも聴きたいよね!」
イヴは飛び跳ねながらそう言い、綾乃も首を縦に振る。
そして綾乃とイヴは、片方ずつイヤホンをつけて琴音が作曲した曲を聴き始める。
それは儚くも優しい始まり。
ピアノの旋律が優しく奏でる。
そこからベースとギターの音が加わり、激しい旋律へと変わった。
(……この曲なら)
綾乃は自然と右手の人差し指と中指が動き出す。
それはまるで、ベースの弦を弾くように。
最後まで聴き終わると、綾乃は満足していた。
今まで弾いてきた『再生の詩』と『Blue-Echo』、その両方とも違う新しい曲。
その音に早くこの曲を弾きたいと思ってしまう。
この思いはイヴも同様だ。
「んー!! 早く弾きたい!!」
イヴは大きな声で言うと、あまりにも大きな声だったせいか周囲にいた人たちが綾乃たちを一斉に見てしまう。
その光景に恥ずかしくなった綾乃と琴音は、イヴの手を引っ張ってその場を離れた。
その日の放課後。
三人は音楽スタジオ『サウンド・スパーク』へ来ていた。
それは新曲の練習するためである。
そして新曲の練習が始まると綾乃は、ふと違和感を覚えた。
(……なんか、変だ)
新曲を始めたばかりでミスは多い、完璧とは言えない自分たちの演奏に、なぜか不協和音を感じる。
何度弾き直しても、何かが足りない。
三人で完璧な演奏をしようとすればするほど、その焦燥感は増していくばかりだった。
「……ごめん、ちょっと休憩しよう」
綾乃は、そう言って練習を中断する。
タオルで汗を拭いながら、この違和感が拭えずにいる。
そして休憩を終え、再び演奏を始める三人。
しかし、一度覚えた違和感の感覚は消えない。
結局、その日の練習は納得のいかないまま終わってしまった。
そうして練習を終え、イヴと琴音と別れた綾乃は気づくといつものようにライブハウス『Sound Nest』の裏手に立ち寄ってしまう。
だが、やはりそこには赤色の髪をした少女の姿はない。
「……あれって」
綾乃は少女がよく演奏していた場所に『ある物』が落ちているのを見つけた。
それは、ドラムスティックだ
遠くからでもよくわかる。
綾乃はそのスティックを拾い上げた。
久しぶりに触るドラムスティックの感触に、綾乃はなぜか、嫌な予感がしてしまう。
まるで、もうドラムを叩くことはない、という彼女の決意が込められているかのようだからだ。
綾乃はそのスティックを握りしめ、20日に行われる『Ablaze』の解散ライブを待つこととした。
もし、あの少女が再びステージに立つなら、そこで彼女の本当の気持ちを知ることができるかもしれない、綾乃はそう思うのであった。
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