第53奏:再演奏
翌日、スタジオに集まったイヴと琴音は、綾乃の様子がおかしいことに気づいた。
普段はあまり表情には出さない綾乃が、どこか浮かない顔をしている。
「どうしたの、綾乃ちゃん?」
イヴが心配そうに声をかけると、綾乃は迷った末に、昨夜の出来事すべて話すことに決めた。
「……昨日、Ablazeのドラマーを、バンドに誘ったんだ」
綾乃の言葉に、二人は言葉を失った。
まさか綾乃が、あの圧倒的なドラムを叩いていた人物に接触していたとは、思いもしなかったからだ。
「えっ!? 知り合いだったの……?」
「それで……どうなったの……?」
イヴは信じられないという顔をしながら尋ね、琴音も驚きを隠せない様子で尋ねた。
「断られた」
綾乃はそう言って、寂しそうに微笑む。
「……そっか」
二人は残念な気持ちを押し殺すように、静かに頷いた。
「でもね、それだけじゃないんだ。あの人、この前ライブハウスの裏で見た子だった。ほら、イヴが膝を擦りむいた時に手当てしてくれた人でもあるんだよ」
綾乃の言葉に、イヴはハッと目を見開く。
「え、そうなの……!?」
イヴは驚きと同時に、残念な気持ちが込み上げてくるのを感じた。
「……あの時の、優しい子。私、まだハンカチを返せてないんだ、その子だったなんて……」
言葉を失うイヴに、琴音は彼女の背中をさすりながらそっと微笑む。
「でも……私たちの気持ちは、変わらないでしょ……?」
琴音の言葉に、綾乃とイヴは顔を見合わせ、力強く頷いた。
「あの人のドラムは、本当にすごかった。でも、それでも私たちにしか作れない音楽がある。あの人のドラムがないからって、そこで止まるわけにはいかない」
綾乃はそう言って、自分のベースを手に取った。
「そうだね!私たち三人で、どこまで行けるか、試してみようよ!」
イヴも綾乃に同調するようにそう自分のギターを抱きしめる。
あの才能あるドラマーを仲間に出来なかったことは、確かに残念かもしれない。
しかし、その残念な気持ちを乗り越え、彼女らには今、目の前に目標がある。
三人は自分たちの持ち味を最大限に活かすような練習方法を模索しながら、文化祭ライブに向けて、再出発するのであった。
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