第51奏:音楽の繋がり
「……貴女、『Ablaze』のドラムですよね」
綾乃から告げられた突然の言葉に、赤い髪をしたツインテールの少女は、驚きを隠せない様子で綾乃を見つめる。
しかし、彼女は静かに首を振った。
「……違いますわ、わたくしはただの『一人のドラマー』ですわ」
その言葉はまるで自分に言い聞かせているかのように、綾乃は感じる。
そして綾乃は突拍子もないある提案をした。
「一人のドラマー……ってことは、今はフリーということですよね? それなら、私たちのバンドのドラムをやってくれませんか?」
突拍子もない綾乃の提案に、少女は目を見開き、驚いた表情をする。
綾乃も気づいたら口が勝手に動いていたことに驚いていた。
「……なぜ、わたくしに?」
しかし、言ってしまったからには後には引けない。
少女の問いに、綾乃は今のバンドの現状と彼女のドラムが、自分たちの音楽に必要であることを冷静に、しかし熱意を込めて語り始めた。
「私たちのバンドには、ドラムがいません。だけど、自分たちだけの至高の音楽を創っています。私たちのバンドには、あなたのドラムが必要です。一緒に、私たちにしか辿り着けない『高み』を目指しませんか?」
綾乃の真剣な眼差しに、女性は言葉を失ってしまう。
その時、ライブハウスのドアが開き、美月が顔を覗かせた。
美月はいつものようにタバコを咥え、煙をふーっと吐き出しながら、二人に近づく。
「……アンタたち。こんなところで何してるの?」
軽口を叩きながら、美月は二人の間に立つ。
「美月さん……」
少女は美月の姿を見て、驚いたように目を見開いていた。
「……この前のライブ以来ね、『Ablaze』のドラマーさん」
(やっぱりそうだ……!)
美月はそう言って微笑むと、綾乃は彼女の言葉に心の中で確信する。
今まで疑惑しかなく、確信に辿り着けずにいたが、美月の言葉でようやく答えへと辿り着いた。
そして少女は横に首を振る。
「……『元』ですわ。わたくしはもう、『Ablaze』のドラマーではありません」
少女は美月の言葉を否定し、目を逸らす。
しかし、目を逸らしながらもう言葉を続けた。
「でも、どうして、わたくしが『Ablaze』のドラマーだと……?」
少女は美月にそう問いかける。
「……そりゃあ、このライブハウスの裏でしょっちゅうドラムの音が聞こえてきてたからね。それに私はライブハウスのオーナーだよ、人が演奏する音ぐらい、見分けがつくわ」
美月はそう言うと、タバコを咥え、タバコの煙を吸って吐き出した。
真っ白な白い息を吐き出すと、ドラムセットに視線を向ける。
「それにこの前のライブからそうだったけど、アンタの音はずっと泣いてる」
すると、その言葉に反応するように目を逸らしていた少女の瞳は、真っ直ぐと美月の顔を睨みだす。
「……なにがわかるんですの。わたくしは一人で、高みを目指したいのですわ」
そう言って、迷いの色を滲ませる。
しかし、美月は静かに少女を見つめて言った。
「一人で目指す高みと、誰かと目指す高み。どちらがより高いか、よく考えなさい」
美月はそう言って、ライブハウスの中へと戻る。
そして二人の間に、静かな時間が流れる。
だが、少女の瞳は激しく揺れ動いていた。
一人で音楽を続けることの孤独と、誰かと音楽を創り上げる喜び。
その二つの選択肢を前に、彼女は、一つの決断を下す。
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次回の更新は、第52奏:消えた音楽、10月7日火曜日午後5時30分です。




