第48奏:ドラムの鼓動
ライブハウス『Sound Nest』の裏手。
赤い髪をしたツインテールの少女が、ドラムセットの前に座っていた。
彼女が先程までドラムを叩いていたのだろうか。
綾乃は物陰からその様子を伺っていた。
少女はしばらくの間、動かずにいる。
すると、深い溜息をつき、まるで自分に言い聞かせるように呟く。
「……まだ、足りない」
そして少女は再びドラムスティックを手に取ると、先程と同じぐらい激しくドラムを叩き始めた。
それはまるで心臓の鼓動のように、深く、激しい音色だ。
綾乃はその音を聞くたびに身体が痺れる。
ビリビリと鳥肌が立つのがわかった。
しばらくすると、女性は演奏をやめ、ゆっくりと立ち上がる。
そして丁寧にドラムセットを片付け始め、一つ一つの機材をまるで大切な宝物のように扱っていた。
この時、綾乃は声をかけるべきかどうか迷っていた。
なんとなくだが、彼女に見覚えがあったからだ。
それは『Ablaze』のドラム担当の少女。
仮面をつけたバンドであり、素顔はわからない。
しかし、赤色の髪にツインテールなのは『Ablaze』のドラムの子と同じであり、あの力強く、魂のこもったドラムの音もほぼ同じのように綾乃は感じた。
そして少女はドラムの片付けを終えると、全てアタッシュケースの中に入れ、そのまま路地の奥へと歩き出した。
綾乃は結局、少女に声をかけることができず、彼女の背中を見つめることしかできなかった。
しかし、少女が叩いたドラムの音は綾乃の心に深く刻まれ、消えることはなかった。
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