第38奏:残響
「よし! 探すぞ!」
打ち上げが終わった次の日から三人はライブハウスや楽器店の掲示板、SNSを駆使してドラマーを探し始めた。
しかし、なかなか思うような人材は見つからない。
ドラムを叩ける人はいても、自分たちの音楽に合うかどうかは別の話だ。
「……難しいね」
イヴがカフェの席でため息をつく。
「うん……」
琴音もそう言って項垂れる。
そしてその日の夜、三人は『Sound Nest』に顔を出した。
カウンターの奥で美月はいつものようにタバコを咥え、煙をふかし
すると、ここで働いている響が話しかけてくる。
「あれ? 今日もドラマー探し?」
響の言葉に三人は難航していることを打ち明けた。
「響、喋ってないで仕事しな」
美月の鋭い声が、カウンターの奥から響く。
響は「はーい」と返事をすると、三人に「ごめんね、また時間がある時に話を聞くね」と手を振って、店の奥へと消えていった。
三人がライブハウスを出た直後。
「……っ!」
路地裏から、力強いドラムの音が聞こえてきた。
三人が音のする方へ向かうと、そこには一人の女性が必死にドラムを叩いている。
その音はAblazeのライブで聴いた曲、あの圧倒的なドラムの音そのものといっても過言ではない。
「すごい……」
演奏が終わると、女性は顔を上げた。
その時、イヴは思わず駆け出す。
「あ、あの!」
しかし、イヴが声をかけようとした瞬間、足がもつれ、その場で転んでしまった。
膝を擦りむき、血が滲み出る。
「貴女、大丈夫ですの?」
女性はイヴの元に駆け寄ってきて、心配そうな声でそう言う。
「痛いけど、大丈夫です」
イヴがそう答えると、彼女はカバンからハンカチを取り出し、そっとイヴの膝に当てた。
「ありがとうございます……」
彼女の優しさに、イヴは思わず彼女の顔を見つめる。
イヴは言葉を続けようとしたが、何を話せばいいかわからず、口ごもってしまった。
その気まずい沈黙を破るように、彼女は何も言わずにドラムを片付け始める。
静かに、そして素早く。
一言も交わすことなく、彼女はドラムセットを丁寧に片付け、三人に背を向けて去っていった。
その場に残されたのは、イヴの膝に巻かれたハンカチと心の奥底に響くような確かなドラムの音だけだ。
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