第36奏:再出発の鼓動
オープンライブを終わり、綾乃、イヴ、琴音は美月の元へと向かった。
「……どうでしたか?」
イヴが尋ねると、美月はタバコに火をつける。
その表情は先週の冷徹な顔とは違い、どこか満足そうだ。
「あんたたち、この短期間で見違えるように変わったわね。特に綾乃。あんたの音はもう弱くない。ちゃんと、あんたの心が鳴ってた」
美月の言葉に、綾乃は目に涙を浮かびそうになる。
イヴと琴音の寄り添ってくれたおかげで、自分自身の音を鳴らせたことが何よりも嬉しく感じていた。
「イヴ、あんたの歌は魂がちゃんと乗っていたし、琴音も自分の音色を見つけてきた。誰から見ても、あんたたちは最高の音を鳴らしたわ」
美月はそう言うと、三人をじっと見つめる。
「ここはあんたたちを育てる場所だと思いなさい。これからもここで、自分たちの音楽を磨いていきな」
美月の言葉に三人は力強く頷く。
これから始まる、三人の新しい物語に希望の光が差そうとしていた。
そしてライブハウスを出た三人は、そのまま近くの公園のベンチに座り、お互いの感想を語り合う。
「美月さん、すごく褒めてくれたね! 私たち、三人ならどこまでもいけるよ!」
イヴが嬉しそうに言うと、二人は大きく頷いた。
「うん……私たち、本当に頑張ってよかった……」
琴音もそう言って微笑んだ。
「……私、最初は自分の音が怖かった。でも、今は怖くない、と思う。二人がいてくれたから」
綾乃は、改めて二人に感謝の気持ちを伝えた。
それは紛れもない、綾乃自身の心の底から思ったことだ。
しかし、綾乃はライブ中の『Ablaze』の演奏を思い出す。
心臓を直接叩きつけられるような、あの力強いドラムの音、あの音が頭から離れない。
「……あのさ、やっぱりドラム、探した方がいいかな」
綾乃の突然の言葉に、イヴと琴音は驚いたように顔を見合わせた。
「突然どうしたの……?」
イヴがそう言うと、綾乃は静かに続けた。
「私たち、三人でもやっていけるって思ってる。でも……『Ablaze』のライブを観て、何かが足りないって、そう思っちゃった」
イヴと琴音は、何も答えられなかった。
二人にはバンドの経験はないが、綾乃のみがバンドを組んでいた過去がある。
その綾乃が言うのだから、間違いなく必要なのかもしれないと二人は思った。
そして三人の間に静かな空気が流れる。
しかし、それは後退ではなく、確かな前進への予感。
このライブは一つの通過点。
綾乃は夜空を見上げなら思う。
(今回のライブは人から見れば小さな一歩かもしれない。だけど、私たちにとっては大きな一歩だと思う)
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