第30奏:心の傷と、3人の音
ライブハウスを出た三人は、それぞれの家へと帰路につく。
しばらくして、綾乃のスマートフォンの通知が鳴り、確認するとそれは『イヴ、琴音、綾乃』というグループチャットからのメッセージだ。
イヴ: 美月さんの言葉、正直、怖かったよね……
琴音: うん……。でも、私も頑張る…! イヴちゃんの歌に、もっと自分の色を乗せられるように!
イヴ: うん! 私も、魂の入った歌、歌えるように頑張る!
二人のメッセージのやり取りを、綾乃はただ見つめていた。
美月から、「本当に、その音を鳴らしたいの?」という言葉が頭の中で何度もリフレインしていたからだ。
(……また、同じことを繰り返しちゃうのかな)
綾乃の脳裏には、前のバンドの記憶、当時の苦しみが美月の言葉によって鮮明に思い出されていた。
次の日。
スタジオに入った三人は、早速楽器を構えた。
しかし、綾乃の音は、いつものように力強く響かない。
「綾乃ちゃん、どうしたの?」
イヴが尋ねるが、綾乃は下を向いたまま何も答えない。
「綾乃さん、大丈夫?」
琴音は、心配そうに声をかける。
「ごめん……ちょっと、集中できない」
綾乃はそう言ってベースを置き、部屋の隅に座った。
イヴと琴音は、瞬時に綾乃の異変に気が付く。
二人は綾乃の隣に座り、ただ静かに彼女に寄り添おうとしていた。
「……私、怖いの」
すると、綾乃はポツリとつぶやく。
「また、失敗するんじゃないかって……」
綾乃の言葉に、イヴと琴音は顔を見合わせた。
「大丈夫だよ」
イヴは綾乃の手を優しく握り、まっすぐな瞳で見つめる。
「もう、綾乃ちゃんは一人じゃない。私たちがいるから」
琴音も、イヴの言葉に続くように力強く頷く。
「私たちは昨日、一緒に最高の音楽を創るって決めたんでしょ?」
その言葉に綾乃の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
それは今まで我慢していたものが溢れ出すかのように。
「うん……」
今まで溜めてきたものが止まらない。
綾乃はその場で何度も大粒の涙を流し、鼻をすする。
そして二人はただただ、綾乃のことを優しく見つめていた。
しばらくして、綾乃は再びベースを手に取った。
「行こう、二人とも」
綾乃の言葉に、三人の音は心の傷を癒すように、静かに、そして力強く重なり合おうとしていた。
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