第26奏:言葉にできない音
オーナーと凛が楽屋を出て行った後、静寂が三人を包んだ。
イヴは顔を俯かせたまま、何も言わない。
琴音も心配そうにイヴを見つめていた。
「……イヴ」
綾乃は、そう言ってイヴの肩にそっと手を置いた。
「……私、オーナーに嘘をついてた」
イヴは震える声でつぶやく。
「私は、ただ、ライブがしたかっただけなのに……」
そしてイヴの目からは、大粒の涙がこぼれ落ちていた。
琴音はイヴの背中を優しくさする。
「大丈夫だよ」
綾乃はただ一言、そう言ってイヴを抱きしめた。
その言葉から、イヴの涙はさらに溢れ出す。
しばらくして、イヴは顔を上げて涙を拭った。
「ごめんね、二人とも……」
「なんで謝るの?」
綾乃は、不思議そうな顔で尋ねる。
「だって、私のせいで……」
「違うよ。イヴのせいじゃない」
綾乃は、まっすぐな目でイヴを見つめた。
「オーナーが言ったことは、きっと、私たちのことを思ってのこと。私たちは、まだ最高の音を見つけられていない。だから、もっと頑張って、オーナーに認めてもらえるような音楽を創ろうよ」
その言葉にイヴと琴音は、静かに頷く。
三人は楽屋を出て、ライブハウスのロビーへと向かった。
そこには凛とオーナーが立っていた。
「……あの、オーナー。また、ライブハウスに来てもいいですか?」
イヴが尋ねると、恵美は微笑む。
「もちろん、いつでもどうぞ」
その言葉に、三人は、安堵したように胸をなでおろした。
「じゃあ……」
イヴが立ち去ろうとすると、恵美が優しく声をかける。
「ちょっと待ちな」
オーナーはロビーの机に置いてあった一枚のチラシを、三人の前に差し出した。
三人がチラシに目をやると、そこには新しくライブハウスができることが書かれている。
「私の弟子が、この前ライブハウスを開店させたの。もしよかったらここに行ってみて。そして君たちが、本当に心から信頼できる仲間、嘘偽りのない音楽を奏でられるようになったら、またここに戻ってきな。私たちは、いつでも君たちを待っているから」
オーナーはそう言うと、三人にチラシを渡した。
三人は何も言わず、ただ静かに、その場を後にする。
ライブハウスを出た三人は、それぞれの胸に言葉にできない感情を抱えていた。
それは、悔しさであり、同時に、これから始まる新しい挑戦への希望でもあった。
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次回の更新は、第27話:新たな音楽の居場所、9月12日金曜日午後5時30分です。




