第21奏:奏でるための目標
屋上での話し合いを終えた三人は、学校近くの音楽スタジオ『サウンド・スパーク』へ向かった。
受付で手続きを済ませ、扉を開けると、そこにはギターアンプやドラムセットが所狭しと並べられている。
「すごい……! なんだか、一気に本格的になった気がするよ!」
イヴが元気いっぱいに叫ぶと、スタジオの中にその声が響き渡った。
「まずは、楽器の準備とウォームアップしてもらって、そこから前回のライブでやった曲を弾いてみようか」
綾乃の提案に、イヴと琴音は頷く。
そのまま綾乃は、ベースケースからベースを取り出し、チューニングを始めた。
それに続いて、琴音もキーボードを軽く触れながらメロディを刻み、イヴも声とギターのチューニングを始める。
しばらくして、綾乃が顔を上げるとイヴも琴音も準備ができたのか目が合った。
「……よし、いこう」
綾乃の声に二人は頷く。
そして三人は、前回のライブで演奏した「再生の詩」を弾き始めた。
弾き始めると、前回のライブとは違い、それぞれの音に迷いはなく、イヴの歌声は伸びやかに響き、琴音のキーボードは優しく寄り添う。
綾乃のベースは、二人の音をしっかりと支え、力強く曲全体を引っ張っていた。
曲が終わると、三人は顔を見合わせて大きく頷く。
「うん、前よりもずっといい音だね」
綾乃の言葉に、イヴと琴音は嬉しそうに頷く。
「ウォーミングは終わったから、ここからが本番」
綾乃は、そう言うと真剣な表情で言葉を続けた。
「今日は、それぞれの課題を克服するための練習をしよう」
イヴは、ギターを弾きながら歌うことに慣れていない。
琴音は、周りの音に合わせる癖がある。
そして綾乃自身の課題は、以前、自分が弾いていた頃の感覚を取り戻すこと、長くベースに触れていなかったため、指が思うように動かず、頭で描いた音が、まだ完璧に表現出来ていないのだ。
三人は、それぞれの課題を克服するため、ひたすら練習を繰り返した。
イヴは、ギターのコードを鳴らしながら、歌詞を何度も口ずさみ、琴音は、自分の音をしっかりと主張できるよう、キーボードの音量を少し上げ、メロディを力強く弾き続けた。
綾乃は同じフレーズを何度も何度も繰り返し弾き、少しずつ、以前の自分へと近づくようにしている。
「ふぅ……」
一時間ほど経った頃、綾乃が汗をぬぐいながら、深いため息をついた。
「もうちょっと休憩しようか」
綾乃の言葉に、二人は安堵したように頷く。
静まり返ったスタジオの中で、三人はペットボトルのお茶を飲みながら、それぞれの課題と向き合っていた。
「まだまだ、課題だらけだけど……なんか、すごく楽しいね」
イヴがぽつりと呟いた。
「うん……一人で弾くよりも、ずっと……」
琴音もイヴの言葉に続く。
綾乃はそんな二人の言葉に、ただ静かに微笑んだ。
三つの音が、一つの音楽へと変わっていく。
それは、彼女たちの未来を照らす、希望に満ちた音の道標だった。
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次回の更新は、第22奏:夢の音はまだ途中、9月7日日曜日午後5時30分です。




