第15奏:私たちの音を、もう一度
公園の遊具のそばに立つイヴと琴音の姿に、綾乃は迷いながらも近づいていった。
「綾乃ちゃん! 来てくれたんだ!」
綾乃の姿に気づいたイヴは、満面の笑みで駆け寄る。
その隣では、琴音も安心したように微笑んでいた。
「……うん」
綾乃は、それ以上の言葉が見つからない。
何から話せばいいのか、分からなかったのだ。
そんな綾乃の様子を察したのか、イヴは彼女の手をそっと握る。
「綾乃ちゃん、やっぱり、私たち綾乃ちゃんとまたバンドがやりたいんだ」
イヴは、まっすぐな瞳で綾乃を見つめた。
その言葉に、綾乃は胸の奥が熱くなるのを感じる。
「あのね、綾乃ちゃん……」
イヴの後ろにいた琴音も口を開く。
「私たちのバンド……綾乃ちゃんがいてくれないと駄目なんです。だから……また、一緒にバンドやってくれませんか?」
イヴと琴音はそう言って、深々と頭を下げた。
綾乃は二人を前に言葉を失ってしまう。
(また、バンドをやる……?)
綾乃の頭の中に過去のトラウマが蘇り、目を、口を咄嗟に閉じてしまった。
ーーもう二度と、あんな思いはしたくない。ーー
しかし、同時に、ライブハウスで感じた高揚感や、二人の演奏に自分のベースが重なる喜びも蘇ってくる。
(……だけど)
綾乃は、ゆっくりと目を開けた。
目の前には、不安そうな表情で綾乃のことを見つめる二人がいる。
綾乃は、固く閉ざしていた唇をゆっくりと開けた。
覚悟はもう、出来ている。
「……私、もう一度、ベースを弾く。三人で……また、バンドを組んでほしい……」
綾乃の決断。
これは過去の自分との決別。
また裏切られるかもしれない。
だけど、綾乃のことを何度もバンドに誘い、来てくれると信じてくれる二人に、もう一度信じてみようと思った。
そして綾乃の言葉に、イヴと琴音は驚き、顔を見合わせ、満面の笑みを浮かべる。
「うん! もちろん!」
「うわっ……っと」
イヴはそう言って綾乃に抱きついた。
綾乃は思わず体勢を崩しそうになるが、体勢を立て直す。
「……ありがとうございます……!」
琴音もまた、瞳を潤ませながら綾乃の手を握る。
そして公園に三人の笑い声が響き渡った。
それは新しい物語の始まりを告げる、希望に満ちたハーモニーなのだろう。
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