第14奏:止まったままの五線譜
いつも通りの朝が来た。
カーテンの隙間から差し込む光が、綾乃の部屋を優しく照らす。
昨日までのライブでの喧騒が嘘のように、静かで穏やかな時間が流れていた。
部屋の外から聞こえてくるのは、そばを打つ力強い音と、だしの香ばしい匂い。
綾乃はそれが父の仕事が始まった合図だと知っている。
そしてライブハウスでの興奮が冷めやらぬまま、綾乃はぼんやりと天井を眺めていた。
(楽しかった……)
本当に、心の底からそう思う。
でも、同時に胸の奥には一抹の寂しさが広がっていた。
(……私はまた、一人になるんだろうな)
そんな思いを振り払うように、綾乃は重い体を起こす。
制服に着替え、いつも通り家を出た。
通い慣れた道を歩きながら、昨日ライブで演奏した『再生の詩』のメロディがふと頭の中に蘇る。
綾乃は頭の中で何度もそのメロディを奏でていると、気づいたら学校に到着していた。
そしていつものように下駄箱に向かう。
自分の下駄箱を開けると、見慣れない一枚の手紙が入っている。
差出人の名前は書かれていない。
綾乃は、周囲に誰もいないことを確認してから、そっと手紙を開いた。
ーー放課後、いつもの公園で待ってる。ーー
ただ、それだけの短くも綺麗な文字で書かれたメッセージ。
しかし、そのたった一文を見た綾乃はため息をついた。
心当たりが一つだけあるからだ
それはあの時、自分をバンドに誘ってくれたイヴと琴音。
いつもの公園は、綾乃がイヴにギターを教えたあの場所だろう。
(もしかして……)
綾乃は手紙を静かにポケットにしまい、教室へと向かう。
しかし、授業中も手紙のことが頭から離れない。
そして気づくと放課後となっていた。
本当に公園に行くべきなのだろうか。
おそらく、昨日の会話の続き。
綾乃はバンドに誘われたが、その答えを出さずに家に帰った。
また期待して、自分が傷つくのは嫌だ。
(でも……)
だが、心の奥底でかすかな期待が芽生えているのも事実である。
綾乃は迷いながらもいつもの公園へと向かった。
そして公園に着くと、ブランコ、滑り台、鉄棒、見慣れた景色の中に二人の姿が見える。
イヴと琴音。
二人は綾乃の姿を見つけると、満面の笑みで手を振るのであった。
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