第13奏:不協和音の帰り道
ライブハウスを出ると、春の涼しい夜風が火照った体を冷やしてくれる。
綾乃はイヴと琴音と共に、熱気から解放された夜の街を歩き始めた。
「ねぇ、綾乃ちゃん! やっぱり綾乃ちゃんのベースが入ってくれたから、私たちの曲が最高の曲になったよ!」
イヴは興奮冷めやらぬ様子で、綾乃に満面の笑みを向ける。
「うん。イヴの歌声も、すごくよかった」
綾乃は照れくさそうにそう答えた。
普段は寡黙な綾乃の素直な言葉に、イヴはさらに嬉しそうに笑う。
「そっかぁ、嬉しいなぁ! ありがとう!」
イヴはそう言うと、隣を歩く琴音に視線を向けた。
「ねぇ、琴音もそう思うでしょ?」
話を振られた琴音は、少し恥ずかしそうに下を向く。
「……はい、あの曲……綾乃ちゃんのベースが加わって、初めて完成した気がします……」
琴音の言葉に、綾乃は胸が熱くなるのを感じた。
「……ありがとう」
綾乃は照れてしまい、二人にそう言うのが精一杯だ。
本当は、もっと色々な言葉を伝えたかったが、うまく言葉にできない。
しかし、言葉にしなくても、二人の心には綾乃の気持ちが伝わっていた。
「ねぇ、綾乃ちゃん! また一緒にバンドやろうね!」
イヴはそう言って、綾乃の手をぎゅっと握る。
その言葉に綾乃は心と身体が固まってしまった。
それと同時に、ライブを始まる前の自分の言葉を思い出してしまう。
(そうだ、私は……今日限りの臨時メンバー。この子たちに、期待させちゃいけない)
綾乃はそう自分に言い聞かせる。
「……ごめん、私、ここで」
綾乃はイヴの答えに何も言わず、目の前の交差点で立ち止まった。
「えっ……行っちゃうの?」
イヴは、寂しそうな顔で綾乃を見つめる。
「うん。今日は本当に楽しかった。ありがとう、イヴ。琴音」
そう言って、綾乃は交差点方向を向き、二人を見向きもせず歩き出した。
「綾乃ちゃん……!」
イヴの声が、背後から聞こえる。
しかし、綾乃は一度も振り返ることなく、人混みの中に消えていくのであった。
三つの音、一つのメロディ ー完ー
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