第12奏:再生の詩
暗転したステージに、三人が静かに姿を現した。
スポットライトが彼女たちを照らし出す。
イヴの赤いギター、琴音のキーボード、そして綾乃の紺色のベース。
三人の姿に、観客からまばらな拍手が送られていた。
そしてイヴはマイクの前に立ち、深く息を吸い込む。
「今日はライブに来てくれて、本当にありがとうございます! 私、ギターボーカルのイヴ、こちらがキーボードの琴音、そしてベースの綾乃、一曲だけだけど、心を込めて歌います!」
イヴの言葉に観客からまばらではあるが、再び拍手が起こる。
「聴いてください、『再生の詩』」
イヴの合図とともに、琴音がキーボードのイントロを奏で始めた。
それはどこか切なく、それでいて力強いメロディ。
(……大丈夫)
綾乃は、自分に言い聞かせるように、ベースを構える。
そしてそのイントロに、イヴの拙いながらも力強いギターと綾乃のベースが加わった。
スタジオでの練習とは比べ物にならないほど、三人の音はまとまっている。
イヴの歌声とギター、琴音のキーボード、そして綾乃のベース、それぞれの音が、まるで一つの魂のように響き合う。
ライブハウスの空気は一変した。
まばらだった拍手は、いつしか手拍子へと変わっていく。
観客たちは三人の演奏に耳を傾け、体を揺らし始めた。
(……なんて、優しい音なんだろう)
綾乃は演奏しながら、思わずそう感じていた。
イヴの歌声は、誰かの心を癒すような温かさを持っている。
琴音のキーボードも、その歌声を優しく包み込んでいる。
綾乃もこの二人の音をもっと輝かせたい、そう思い、ベースを弾く指にさらに力を込める。
ベースは力強く、そして優しく二人の音を支えていく。
それはかつて、綾乃が憧れた最高のベーシストの音と同じ。
そして演奏が終わり、三人が深々と頭を下げるとライブハウスは割れんばかりの拍手に包まれた。
イヴと琴音は、満面の笑みで綾乃に駆け寄る。
「綾乃ちゃん! すごかったよ!」
「ありがとう……綾乃ちゃん……」
イヴと琴音の言葉に、綾乃は静かに微笑んだ。
(……楽しかった)
綾乃は、心の底からそう思った。
ステージから降り、興奮冷めやらぬイヴと琴音と談笑していると、一人の女性が綾乃に近づいてくる。
それは楽屋までの道を案内してくれた、倉本響だ。
「ライブ、楽しかった?」
そう言って、響は綾乃をまっすぐに見つめる。
「……はい」
「改めまして、私、Luminousのギターの倉本響。あなたのベース、すごくよかった。まるでベースが歌ってるみたい」
「ありがとうございます」
綾乃は静かにお礼を言うが、響は話を続ける。
「ねぇ、この後、私たちがこのライブのトリなの。よかったら見ていって。後悔させないから」
「わかりました……」
この時、綾乃は社交辞令で行ったが、ライブを観る気はなかった。
しかし、イヴと琴音はその言葉に興味を示し、綾乃は二人に引っ張られる形でライブハウスの観客席へと向かうこととなる。
観客側に回ると、先程まで自分たちが演奏していた時よりも数倍以上観客が押し寄せていた。
すると、ステージに六人組の女性たちが姿を現し、観客側からは割れんばかりの歓声と拍手が送られる。
倉本響のバンド、Luminousだ。
ライトを浴びた彼女たちの姿は、先ほどの自分たちとは比べ物にならないほどの堂々とした佇まい。
それぞれの楽器を手に、アイコンタクトを交わす。
次の瞬間、響のギターが、けたたましい轟音を響かせた。
それは、綾乃が今まで聴いてきた、どんなバンドの音よりも力強く、迫力のある演奏だ。
六人の音が一つになり、ライブハウス全体を震わせる。
観客は彼女たちの熱量に引き込まれ、一斉に体を揺らし始めた。
綾乃は、その圧倒的なパフォーマンスにただ見惚れていた。
イヴの熱い歌声も、琴音の優しいキーボードも、Luminousのパワフルな音の前ではかき消されてしまう。
(これが……本物……)
綾乃は、そう思った。
そしてLuminousの演奏が終わり、この日のライブは幕を閉じる。
ライブハウスの出口に向かうと、そこにスタジオからステージに送ってくれた女性が立っていた。
「あんた、本当にすごいわね」
女性はそう言って綾乃をじっと見つめる。
「……あんたの音、あの二人の音と最高に合ってたわよ」
そう言うと、女性は優しく微笑んだ。
(私の音……)
綾乃は自分の手に残るベースの感触をそっと確かめる。
「……はい」
今の綾乃には、そう答えるのが精一杯だった。
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