第99奏:苦悩
練習が中断となり、四人はは雅の家を出た。
誰も何も言わない。
ただ、重い沈黙が四人を包んでいた。
雅の家の門で、四人は別れる。
「……また、明日」
綾乃が小さく言うと、三人は頷いた。
「うん……また明日」
イヴも力なく答える。
雅はそのまま屋敷の中に戻り、三人は歩き出した。
途中で琴音とも別れた二人は、しばらく歩いた後、立ち止まった。
「……どうしよう」
イヴが不安そうに呟く。
綾乃も答えられない。
琴音は新曲が作れず、イヴは歌に不安を感じ、雅は完璧主義に苦しんでいる。
そして、綾乃自身も不安を抱えている。
「私たち、バラバラになっちゃってる……」
綾乃が静かに言うと、イヴは俯いてしまった。
「……明日、ちゃんとみんなで話そう」
綾乃はそう言って、イヴの肩を叩いた。
「このままじゃ、ダメだ」
イヴは大きく頷いた。
「うん……」
二人は別れ、それぞれの家路についた。
その日の夜、イヴの自宅。
イヴは再び、鏡の前で発声練習をしていた。
「あー……」
しかし、やはり高音が出ない。
「どうして……」
イヴは涙を流しながら、練習を続けた。
(みんな苦しんでるのに、私だけ弱音を吐けない。でも……どうすればいいの……)
イヴの心は、不安でいっぱいだった。
同時刻、琴音の自宅。
琴音は相変わらず、キーボードに向かっていた。
しかし、何も浮かばない。
そして、今日のイヴと雅の様子が頭から離れない。
「私のせいで……みんなが……」
琴音は涙を流した。
自分が新曲を作れないから、みんなが苦しんでいる。
そう思うと、琴音はさらに自分を責めてしまう。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
琴音は何度も謝りながら、キーボードに向かい続けた。
そして綾乃の自宅。
綾乃はベースを抱きしめている。
「……私が、しっかりしなきゃ」
綾乃は自分に言い聞かせた。
しかし、綾乃自身も不安でいっぱいだった。
(みんなを、どうやって支えればいいんだろう……私にできることは、何なんだろう……)
綾乃は、答えの出ない問いに苦しんでいた。
雅の自宅。
雅は専用スタジオで、一人ドラムを叩いていた。
同じフレーズを、何度も何度も繰り返す。
しかし、その音は硬く、機械的だ。
「完璧に……完璧に……」
雅は自分を追い込み続けている。
しかし、どれだけ叩いても、満足のいく音は出てこない。
やがて、雅は演奏を止めた。
「……わたくしは、何をしているのかしら」
雅の目から、涙がこぼれ落ちる。
「完璧でなければ……認められない……」
雅は、幼い頃から刷り込まれた価値観に、今でも縛られていた。
「でも……これが、わたくしの音楽なのかしら……」
雅は、ドラムスティックを見つめた。
完璧を求めることが、本当に正しいのか。
雅は、初めてそれを疑い始めていた。
夏の夜は、静かに更けていく。
四人それぞれが、それぞれの壁にぶつかっている。
バンドの雰囲気は、日に日に悪くなっていく。
このままでは、『Aura・Notes』は崩壊してしまうかもしれない。
しかし、夜明けは必ず来る。
四人の長い夜が、ゆっくりと過ぎていくのであった。
最後まで読んで頂き、誠にありがとうございます。
よければブックマークとご感想、お待ちしております。
毎日午後5時30分に更新しております。
次回の更新は、第100奏:宿題と音楽、2月6日午後5時30分です。




