退屈な魔女
ああ、退屈だ。退屈だ。
何を食っても、どんなに寝ても、何をしてても、全てが貧相で下らなく、なんの面白味もない。
退屈過ぎて、吐き気がする。
無色。白も黒もありゃしない。
全てが透明。全てが無駄!
無価値で無意味で馬鹿馬鹿しい。
何がそんなに楽しいというのか。
人生とやらに、なんの意味があるというのか。
どうせ、最期には皆屍になって朽ち果てるというのに。
この退屈で色のない世界の中で、何故、この私が生きなねばならぬのだ。
『コネクト・ヒアリアス』ーーあの女は、最悪だ。
何の生産性もないことに「面白い」を見出し、それを糧に生きている。
その癖、脆弱なのだ。あれは時期に死ぬ。
死に対する恐れを知らぬ。ああいう魔女から死んでいく。
死すらも「面白い」と感じている化け物に、何を言えば良いのか。
そもそも、私がこんなにも「退屈」な世界で生き続けねばならぬのは、あの女のせいだ。
生物が行う栄養摂取を怠り、今にも死にそうであった私を、有無も言わさずに攫ったのは、あの女である。
あのまま、捨てておけばいいものを。
あの時、既に死に絶えていたのならば、この無味乾燥な世界で呼吸をすることはなかった。
何故、生かした?何故、この世に留まらせようとした?
私にとって、生とは地獄そのものだ。
私は確かな死を望んだ。
「死」は私にとっての何事にも変え難い救済だ。
無聊をかこつとは、まさにこの事だ。
無駄な時をなぜ生きねばならぬ。私に時間を与えるのであれば、もっと価値のある魔女を生かすべきであった。
ーーー私にとって、人生とは無為無聊な時間だ。
何も生み出せない。何も愛すことも出来ない。
全てが無意味で無価値に感じる。退屈で退屈で、死んでしまいそうだ。
「生きる」喜びがわからない。
「与える」喜びを知らない。
ーーー知ることすら、烏滸がましい。
―――――
「キミって、「この私」って言う割には、自己肯定感低いよねー!」
無邪気な女が笑いながら言う。
私は、思わず眉間に皺を寄せた。
「……」
「無意味で無価値だなんて、言う割には、キミは世界に「可能性」を感じている」
「人に、価値を見出そうとしているね 」
「自分以外の価値がある魔力者を生かせばよかったなんて、退屈人間の口から聞けるなんて!なんて面白いんだろうね? 」
「うぜぇ」
私がそう返すと、あの忌々しい女は腹を抱えて笑った。
ウザったらしいにも程がある。だから嫌いなんだ。
「キミは、今まで生きてきて面白いことはなかったの?」
「ない」
「即答!」
わっと笑い出す女を知り目に、あの女が拾ったという子供と目を合わせた。
「コイツ、名前は?」
「え?そんなものいるの?」
「……」
思わず頭を抑えた。ああ、だからコイツは人間に向いていない。
自分本位な女である。
人を散々乱し、巻き込み、振り回し。
されど、興味が移れば簡単に捨てる。
自分勝手で、いっそ潔い女。
やる事なす事滅茶苦茶で、支離滅裂。
人の理解を軽々と超え、魔女にすら「面白さ」を求め、勝手に失望する。心底面倒臭い女だ。
その癖、時間の無駄なことは率先してやる。
私と、この子供が良い例だ。
なんの価値もない。女の言う「面白さ」を満たせない、退屈で平板な存在だ。
私といても、陳腐だろうに。
あの女の思考が読めない。
「……あの、お姉さんは、怒ってるの?」
子供が、ヒアリアスに問いかけた。
ヒアリアス……いや、自由勝手で無遠慮な女は、ただニヤニヤとするばかりで、逆に子供を怖がらせていた。
私は、軽い頭の痛みを感じながら、わざと大きな舌打ちをする。
視界の隅で、子供がビクついていたが、知ったこっちゃない。
「怒ってなどいない。ただ、呆れているだけだ」
子供は、なぜか少し笑った。
意味がわからずに、顰めっ面になった。
「なぜ今、笑った?」
子供は、笑うばかりで何も教えてはくれなかったし、無論、あの無神経な女も愉しそうに肩を震わせるだけだった。
ああ、気持ち悪。
―――――
「はは、オマエ。最期はなんて間抜けで体たらくなんだ。」
興醒めだ。たかだか、あの頭の可笑しい狂った魔女が死んだごときで……後追いするように死ぬなんて。
私に役に立たない子供を見せて帰った後、すぐだったらしい。
子供が泣きながら家に訪ねて来た事には、少し驚いたが……何とも、あの女らしくない最期だ。
最高に、下らない。興味も微塵も湧かない理由で死ぬなんて。
「つまんない女だな。オマエ。」
何となく、索然とした気分だった。
子供が、不安げに私を見上げた。
私は、その子供を見下ろしながら言う。
「勝手にしろ」
どうせ、世界は変わらず無意味で無価値で下らないのだから。
たった一人の子供が着いてきたところで、その事実は変わらない。
あーあ、失望したよ。失望なんて烏滸がましいほどに。
筆舌に尽くしがたいほど、実に、用をなさない時間だった。