●21
初日の授業が終わり寮に戻った俺は、隣室のオーウェンとお喋りをしていた。
「今日の授業、楽しかったね」
「午前の座学は退屈だったけど。でも森での実践は楽しかった」
ちなみに課題を終えて学校に戻った俺はミンディの特進科クラスを覗きに行ってみたが、授業中だったためすぐに自分の教室に戻った。
考えてみると授業を早く終えているということは、他のクラスは授業中に決まっていた。
「正直に言うと、リリーと組んだフィンレーが課題をクリアするとは思ってなかったんだ。フィンレーって強いんだね」
「リリーもすごかったぞ。ボールは二つともリリーが見つけて取ってきたんだ。だから俺は森の入り口までボールを守っただけだ」
俺の言葉を聞いたオーウェンは、大袈裟なほど驚いていた。
「そうだったの!? それはリリーを見る目が変わる話だね」
「リリーは引っ込み思案だから見くびられがちだけど、決して劣ってるわけじゃない。自信さえ持ってくれれば、もっと評価されるはずだ」
それにリリーはお喋りだって下手ではない。
今は俺としか話していないが、すぐに友だちだって出来るはずだ。
ただ引っ込み思案でなかなか俺以外に話しかけられないところが、目下の問題だが。
ちなみにあのあと俺とリリーは教室でお喋りに花を咲かせた。リリーは俺の腕力がお気に召したらしく、身体の鍛え方を詳細に聞いてきた。
……って、あれ。もしかしてリリーは身体を鍛える気なのか?
ムキムキになって、相手を筋肉で黙らせるつもりなのかもしれない。
リリーには今の細くて儚げな姿が似合っている気がするが、身体を鍛えることでいじめっ子たちを遠ざけられるなら、それもアリ……なのか?
『儂は今のリリーちゃんが良いのじゃ』
(俺もそうだけど、リリー自身が鍛えたいなら鍛えればいいとも思う。でも、ムキムキのリリーか……)
想像をしようとして、すぐにやめた。俺の頭の中では儚げな姿のリリーでいてもらおう。
「結局、ほぼ全員が課題をクリアしたらしいね。普通科って言うけど、案外優秀な生徒が多いのかも」
ムキムキのリリーについて考えていた俺は、オーウェンの言葉で現実に引き戻された。
「そうかもな。くじ引きで入学試験合格を引き当てる運も持ってるしな」
「あはは、違いない。運も実力のうちだから、その点では特進科を上回ってるかもね」
口では冗談を言ったが、実際素早く木登りをしたり岩を砕いたりと、能力の高い生徒が多かった。
それにパトリシアとルナもなかなか優秀だと思う。
相手が俺ではなかったら、きっとボールの奪取に成功していたはずだ。
「ただ、女子二人だけタイムアップになったらしいよ。なんでも頭を強く打ってて、保健室で治療を受けたんだって」
その女子二人は、きっとパトリシアとルナのことだ。二人は授業が終わっても教室には戻ってこなかったから。
どうしたのだろうと気になってはいたのだが、保健室に運ばれていたとは。
やってしまった。あの場で回復魔法を掛けるべきだった。
『儂はあのとき回復魔法を掛けるべきだと思っておったのじゃ』
(じゃあその場で言ってくれよ!? そうか、普通の十二歳はあれで保健室行きなのか)
二人には悪いことをしてしまった。
お詫びにピンクのパンツのことは誰にも言わないでおこう。
「でもまあ、そんなことはどうでもいいんだ」
「うん?」
二人に回復魔法を掛けなかったことを後悔する俺だったが、オーウェンはパトリシアとルナには興味が無いようだった。
「そんなことより、これから寮を抜け出して探検に行こうよ!」
「入学早々、抜け出すのかよ!?」
もうすぐ消灯時間になる。
消灯時間になったら、トイレ以外では自室から出てはいけない決まりになっている。
そのルールをこんなに早い段階で破ろうとするなんて。
「先生たちだって、新入生がこんなに早く寮を抜け出すとは思わないでしょ。だから裏をかくんだよ」
「裏をかくって……俺は先生に目を付けられるのは嫌だな」
「見つからなきゃいいんだよ。僕たちなら見つからないって」
『その通りじゃ。見つからなければいいのじゃ』
(ゴッちゃんもそっち側かよ!?)
ゴッちゃんはオーウェンを止めるどころか、オーウェンと一緒になって学校探検を勧めてきた。
俺が先生に目を付けられることは、ゴッちゃんも避けたいはずなのに。
『もう一度言うぞ。見つからなければいいのじゃ』
(……ゴッちゃんは神に向いてない気がする)
神が悪事を勧めてくるなんて。
『勘違いをするでない。儂は悪事を勧めておるのではなく、探検を勧めておるのじゃ。これからこっそり生徒たちのスキルを奪えるよう、この学校について熟知しておく必要があるからのう』
(もしかして俺、これから夜中にこっそり生徒たちのスキルを奪わなきゃいけないのか?)
『それもこれも世界のためじゃ。世界のために心を鬼にするのじゃ!』
世界のために、これからの世界を担う子どもたちのスキルを奪うのか。厄介な使命だな。
『別に先生たちからスキルを奪っても良いがのう。ただ相手を見極めないとフィンレーの正体がバレる可能性が高いのじゃ』
(教える立場になるくらいだから、先生の中には魔法で俺の行動を分析できるような実力者がいるかもしれないな。それを思うと、生徒たちからスキルを奪う方が簡単で無難か)
『そういうことじゃ』
俺の学校生活は、これから大変なようだ。
「なっ、フィンレーも探検に行くよな? 一緒に行こう!」
「分かったよ。ただし、絶対に見つからないように気を付けてだからな」
俺が探検に同行することを告げると、オーウェンはニカッと嬉しそうに歯を見せて笑った。
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