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02 テレポート


「テレポート」


 先輩がそう唱えると同時に視界がゆがむ。

 数秒間暗転し、次、目を開けるとそこはダンジョンの入口だった。


 受付のお姉さんと数人の冒険者が急に現れた僕と先輩を見て驚いてる。

 ...視線が痛い。


「へ~ここってこんな田舎だったんだ~」


 他のみんなからの視線を感じないのか、なにも変なことが起こっていないかのように窓の外の景色を堪能する先輩。


「うっぷ...」


 無理やりテレポートした文句を言いたいけど、後から来た吐き気でそれどころじゃない。胃を持ち上げられて上下左右に振り回されたような感覚。


「はははっ!もしかして初めて?あれ?数回やったことなかった~っけ?」


 僕が吐き気でうずくまってることに気づき爆笑してる先輩に怒りがこみ上げるが、100%勝てないことはわかってるので握っていたこぶしをゆっくりと開く。


 どうやら先輩は一つ1000万近くするテレポートアイテムをこんなことのために使ったらしい。


 ついでに三半規管がすごい弱いこともわかった。前は大丈夫だったのに...。


「現役冒険者じゃない人が使うとこんなことになるんだね~。あ、話せないか!おもしろ~」


 その時、吐き気で苦しむ中、一人の女性冒険者が近づいてくるのが見えた。


「あの...鈴原れいさんですよね。ファンです!サインしてください!!」


 どうやら先輩のファンらしい。


「え!ホントに!?」


 はしゃぐ先輩がファンの冒険者と話している間に、少し吐き気が収まってきた。


 1分ほど座って待っていると吐き気が収まり、冷静な判断ができるようになってくる。


 そして考える。

 目の前にはダンジョン、僕のことを連れてきた...。絶対ろくな事じゃない。


 逃げるべきか??人前で吐くリスクを背負って??


 吐き気とこの後起こりうるだろうリスクを頭の中で天秤にかける。おそらく先輩は僕をダンジョンに連れていくつもりだろう。

 自分の頭はすぐに結論を導いた。天秤は一瞬で''この後起こること''の方へと傾く。


 絶対ヤバい。


 先輩はまだファンと話してる。


「鈴原さんに憧れて冒険者になったんです!」

「え!ホント~?嬉しいけど冒険者はやめた方がよかったんじゃない?」


 言葉とは裏腹に声から嬉しさがこぼれ出てる。


 先輩が僕の方を向けば絶対にダンジョンに行くことになる...今がチャンスだ。


 先輩がファンとの話に夢中になってる間に、一目散に逃げる僕。


「ん?...あれ?」


 後ろの方から微かに先輩の声が聞こえた。


 ブォンッ


 先輩のスキルだと思われる風を切る音が聞こえた。その瞬間本能が危険を知らせる。

 音が近づいてきている。恐怖で勝手に声が出る。


「ひぅっ!?」


 やばい!ここは危険だ!


 すぐさま脳が回避命令を下すが、運動不足なせいで体が動くまでラグがあり、うまく動かない。


 目の前にあった左の細い路地へと走りながらジャンプするが、着地の衝撃をもろにすねの骨に受け、倒れこむ。


 昔なら簡単にできてたのに、筋肉ないせいでただのジャンプでもダメージ受けるのかよ...。


 そんなことを考えていると、急に目の前が暗くなる、何者かによって日光が遮られたみたいだ。


 恐る恐る後ろを振り向くと、ニコニコしている鈴原先輩。


「よくその体で私の1撃を避けたね~。」


 1撃?1撃ってなに!?その言葉から死にそうな香りがプンプンしてるんだけど!?


「あれ?もしかしてジャンプしたけど筋肉なさすぎるせいで骨にダメージいったの?ふははっ!おもしろ~!」


「...そうです」

 先輩はこの後3分ほど爆笑し続け、その後普通に引きずられて無事ダンジョン入口に戻ってきた。


---------------------------------------------------------------------------------


【~ダンジョン入口、受付~】


 入口に向かって引きずられている中、僕は勝ち誇った顔をしていた。先輩は僕がおかしくなったと思っているのか、憐みの目をしている。


 ふふっ、先輩、僕は勝った。ダンジョンに行かずに済む。


 なぜかって?みんなはダンジョンに入るとき、冒険者カードの提示が必要なことを知っているよね。僕は冒険者カードを持っていない。まあこれは先輩もわかっているだろう、だがここに落とし穴がある。


 そこまで知られていないことだけど、冒険者カードには有効期限がある。なぜなら僕みたいに冒険者として活動しなくなった人がいきなり高ランクダンジョンに行くのは危険だから。


 そして僕のカードはすでに有効期限が切れている。これでは受付の人に止められるはずだ。


 そしてついにその時が来た。


「冒険者カードを提示していただけますか」


 受付のお姉さんにそう言われ、普通にポケットから自分のカードと僕のカードを出す先輩。


「はい~」


 どこから入手したか聞きたいけどそれは後でいい。ここまでは想定内。大丈夫。


「お二人ともAランク!すごいですね」


 数秒後、受付のお姉さんは申し訳なさそうに言った。


「すみません、お連れ様のカードの有効期限が切れているようでして...」


 よし!これで生き延びれる!


 唖然とする先輩。


「あ~、そういうのあったわ~。忘れてた~。だから君おかしくなってたのか~」


 僕は勝ち誇った顔で言う。


「そうですよ。僕は1年半クランにもダンジョンにも行ってないんです。気づくべきでしたね~」


 勝ち誇った僕と絶望する先輩。


 その時、お姉さんが申し訳なさそうに言った。


「あの~Fランクになるなら入れ~ますね」


 勝ち誇った顔になる先輩と絶望する僕。


「と、言いますと?」


 ここぞとばかりに先輩が攻めたてる。


「期限が切れたカードを元に戻すにはテストを受けないといけませんが、今すぐダンジョンに入りたいのでしたら、お連れ様のカードを破棄して、改めて冒険者カードを作れば入れますね。推奨はしてないんですけどね」


「規定ではダンジョンランク+2ランクの付き添いがいれば制約はありますがダンジョンに入れることになっています。ここはDランクダンジョンなのでBランク以上、Aランクの鈴原様がいらっしゃれば入れます」


 つまり、冒険者カードを1から作り直すってこと?全然いやなんだけど。今までの苦労がパーになっちゃうじゃん。

 それでなんで先輩は''ありだな!''みたいな顔してるの?


「じゃあそれで!」


 普通に嫌なんだけど。


「嫌なんですけど。Aランクになるために頑張った苦労がすべてパーになるじゃないですか!」


「いや、さっきDランクでも苦戦するって言ってたじゃん。そんなのでAランクカード持ってても意味なくない?それにダサくない?」


 自分の心に10000ダメージ。


「だ、ダサい..かな?」


「それにテスト受けたとしても、Cぐらいじゃない?」


 先輩の言ってることは正しい。テスト受けたらよくてC、たぶんDぐらいだろう。


「まあ、それぐらいだと思うけど...」


「ならいいでしょ!」


 思春期真っただ中で、引きこもってた自分は人からの評価に非常に弱い。ダサいのは嫌だし、完全にレスバで敗北したので先輩の言うとおりにする。


 こうして僕はFランクになった。

 

やっぱり3日に一回の更新になりそうです。

~今回のひとこと~

いつ主人公の名前を出すか、考え中。

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