殺してくれる人を探していた
殺してくれる人を探していた。優しくて、賢い人。
死にたかった。でも自殺は寂しすぎるよ。誰にも知られずに死んで、すべてが終わった後に見つかって、そうしてはじめて悲しまれる。悲しみ以外の感情を作ってくれない。
何の意味もない私の人生。せめて、死ぬときくらいは、誰かの意味になりたかった。
誰かにとって、特別な自分にしてほしかった。
つらいよ。くるしいよ。たすけてほしいよ。でもみんな、私のことを見て「甘えている」って思っているんだ。その優しい目がそういっている。この子は、ずっと甘やかされて育ったんだ。自分の力で、壁を乗り越える力がないんだ。全然その気がないんだ。そう思われているんだって、わかってる。
でもどうしようもないんだよ。その理由は、私にしかわからない。ひょっとすると、私にもわからないかもしれない。必死になって説明したり弁明していたこともあるけれど、もう諦めた。私は黙ることにした。黙って、蔑まれているままにしておくことにした。
私は少し賢くなったんだよ。それで。
殺してほしい。殺してほしかった。誰か優しくて、賢い人に。
そんな人はいなかった。だから私は生き続けるしかなかった。
「なんでお前はまだ生きているんだ」
その人の目にうつる私は、きっと生き意地を張っている、平凡以下の、出来損ないの女。嘘つきで、自己中で、何の能力もない、無駄な存在。貴重な資源を食いつぶすだけの寄生虫。
殺してほしかった。せめて、私の痛みと苦しみをわかってくれる人に。私に生きてほしいと思いながらも、このまま私が生き続けることがどれだけ悲しくて残酷なことかわかってくれる人に。
私の残りの人生の痛みと、今ここで殺される痛みとを天秤にかけて、正しく公平に裁いてくれる人に。
神様のような人に。
私の心臓を、一突きで貫いてくれる人に。そのあとに私を抱きしめて優しい声で「大丈夫だよ」と言ってくれる人に。
その人生の足跡が、私の血で染まることを覚悟してくれる人に。私のことを死ぬまで考えてくれる人に。
これがその人の最初で最後の殺人でありますようにと、私が死ぬときに、そう想えるような人に。
私を殺した後に、一点の曇りもない幸せな人生を歩み、その中で、決して幸せでなかった私のことを想い、悲しんでくれるような人に。
私は殺してほしかった。心の底から、そうしてほしかった。
それは、子供のころの無謀な夢をかなえるよりも難しいことだった。それはわかっていた。わかっていたんだ。
そうして私は、何もない自堕落な生活を続けて、そのまま死んでいく。誰からも望まれず、隣人たちの小さな憎しみと侮蔑を浴びながら、穏やかに、平凡に生きて死んでいく。
それで。それで、何もなかった。終わり。
殺してほしかった。でも殺されなかった。それだけのこと。それだけ。