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幕間:挨拶を終えて

 嬬恋は入学祝いの挨拶を終えた後、結局多くのクラスメイトに挨拶され、その対応を愛想よくとはいかないものの、きっちりとこなしてから教室を後にした。

 中等部の有名人ということもあり、集める注目も多かったのだろう。



 別棟にある中等部、自分の教室まで戻ってきたところでクラスメイトの女子に声をかけられる。


「おかえり~。あれ、なんかいいことあった窈」


「べつに」


「そんなつっけんどんな返ししたって、私には分かるよ。だてに3年間同じクラスじゃないんだから」


 実際に帰ってきてからの嬬恋の表情はいつもと変わらない無表情だったのだが、3年間の付き合いがある者に言わせれば、纏う雰囲気から感情の機微が読み取れるらしい。


「そもそも代表の挨拶とかするタイプじゃないじゃない。今回に限ってどうして受けようと思ったわけ?」


「なんていうか、気分」


「そんな言い訳が通じるわけないでしょ。大体、通例なら成績優秀者から順当にA組、B組、って挨拶する場所も決まってるのに、わざわざD組って希望まで出して、やる気になった瞬間やりたい放題ね」


「そう?優秀者から選ぶ権利があると思うけど。じゃんけんで勝った人が先攻とかって納得できないし」


 事も無げに嬬恋は当然の権利だと主張する。

 元々そんな振る舞いをするタイプでもないと認識しているクラスメイトからしてみれば、こんな風に自我を出す嬬恋は新鮮に映った。


「で、そうまでして行ったD組で、噂の影魔法の人には会えたの?」


「は、なにそれ」


 言葉こそ冷静な否定だったが、少し瞳に揺らぎがあった。

 普段からクールな嬬恋と向き合っているのだから、その小さな動揺を見逃すはずがない。


 何よりかまをかけるとかではなく、彼女なりの根拠があっての発言だった。


「ごまかしたって無駄だからね。初めてクラスで影魔法の先輩の話を聞いたとき、窈が珍しく肩をびくっと震わせてリアクション取ってたの、私見てたから。それに入学したての先輩たちなんてろくに情報もないのにD組を指名って、噂の有名人くらいしかターゲットいないでしょ」


「想像力豊かでうらやましい」


「そりゃ珍しい魔法だけどさ。なになに最強は私だって眼をつけにいったの?」


「私はいつからそんな不良のイメージになったの」


「だって影魔法なんてこの学園にふさわしくないとか、窈はそういう弱い者いじめする子じゃないのは知ってるし。未知の魔法に興味をもったか、最強ここにありって言いに行ったかのどっちかって予想してたんだけど」


 クラスメイトとして嬬恋と接してきた者の信頼がそこにはあった。


 中等部でも影魔法への偏見はやはり存在する。

 その入学を知ったクラスメイトの反応からもそれは明らかだったが、嬬恋がそこに属するものではないというのは積み重ねてきた交流が物語っていた。


 むしろ優等生に分類される嬬恋は弱者に手を差し伸べるタイプだった。

 普段の感情の起伏のない姿を見ていると想像しがたいかもしれないが、彼女の本質を見ようとする友達なら分かることであった。


「窈が先輩を倒したーなんてニュースが飛び込んでこなくてよかったよ。でも、なんか今みたいな窈、いい感じだね」


「なにそれ」


 そう言っている嬬恋はやはりどこか嬉しそうに見える。

 真意はうやむやのままだが、今回のことをきっかけとした嬬恋の小さな変化は喜ばしいことだと思うのだった。

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