マビモギ開始
最初の魔尾はランダムに渡されるとのことだったが、魔尾に選ばれたのは谷見だった。
谷見と魔尾は一体化し、本当に尻尾が生えているかのように違和感がなかった。
「どうやら神は僕に微笑んだようだ。圧倒的な力を見せてやる」
谷見が手をかざすと複数の火球が取り囲むように出現する。
その数の多さに出した本人も驚いていることを見るに、つながった魔尾から魔力の恩恵を受けている効果が表れていることは間違いないだろう。
思った以上に魔尾を所持していることで得られるアドバンテージは大きいらしい。
「これはすごいぞ。このまま尻尾は守りきらせてもらう」
次々と生み出される火球に吹き飛ばされる生徒たち。
絶え間ない攻撃によって、容易には近づけない状況だった。
それでもこの場を制圧するには手数が足りていない。
餓鬼も人数、力の差があろうとも数というものはただそれだけで力をもっている。
ましてや力を持ったものが多対一の経験に富んでいなければその差は見る見るうちに埋まっていく。
己の魔法を火球にぶつけ、相殺する生徒たちが現れる。
間断なく続けられた猛攻にも、徐々に隙が生まれ始めていた。
強者はその好機を見逃さない。
吾妻美鳴はずっとチャンスをうかがっていた。
「今だ、貫け!」
吾妻から勢いのある雷魔法が谷見をめがけ、一直線に向かう。
雷撃の接近に気づいた谷見は、体勢を崩しながらもすんでのところで直撃を避けた。
吾妻はすぐさま谷見に向かって駆け出す。
今度は自らが作り出した隙に乗じて魔尾を狙いに行く。
しかし、それよりも前に谷見の背後に迫る者がいた。
千条久澄だ。
あまりにも早い到達、これは谷見が体勢を崩したのを見てから動き出したのでは到底間に合わない。
戦況が拮抗してきたことをいち早く見越し、間隙を突いた誰かの一撃が谷見を狙い撃つ今の展開を予想していたからこそできる芸当だ。
当然谷見も接近に気が付き魔尾を守ろうとするが、間に合わせに生み出した炎は千条の水魔法によってかき消されてしまう。
「はい。おしっぽ、いただきました」
にこっと笑みを浮かべると既に手には魔尾が握られていた。
ゲームが始まって初の魔尾の移動が起こる。
谷見の悲痛な叫びをバックに、光を発して千条の臀部に魔尾が移った。
「確かにこれはいつも以上に力が湧きますね」
増幅する魔力を実感しているのだろうか、千条は自分の手をじっと見つめ、握ったり開いたりを繰り返した。
確かめ終えた千条が魔法を発動すると、水の壁が現れる。
先ほどの谷見とは打って変わって、周りを攻撃する意思は見られない守りに特化した態勢だった。
「近づけねぇ!」
戦法は見事にはまっていた。
攻撃に手をまわしていない分、防御の方に増えた魔力を集中できている。
少数にかまけて無駄に隙を生まないため、多対一においては有効だった。
「残り時間1分!」
紅崎の声が響き渡り、焦った生徒たちはさらなる攻撃を仕掛けるが、遠隔からの魔法攻撃は水の壁に阻まれる。
水の壁はただそこにあるだけではなく、水流を作り千条を狙う攻撃の軌道を逸らしていた。
堅固な壁ではないものの、確実に相手の攻撃を遠ざけている。
千条が魔尾を守ったまま、時間は過ぎていく。
「さあ15秒前だ」
時間に追われ、自らの体で突撃する生徒も出てくるが、流水にはじかれる。
刻一刻とタイマーがゼロに近づいていく。
残り5秒、生徒たちは脳内で千条の勝ちを思い浮かべていた時、
「え、あ!」
図らずも上げた声。
今の今まで何の気配もなかった千条の背後には、日裏がいた。
静かに向けられたその眼は、獲物を狙う狩人のようで思わず背筋がぞくりとする。
いつの間に、どうやって、そんな思考が入り乱れる間にも、咄嗟に尻尾を守ろうと体は動く。
だがそれも無駄な抵抗とばかりに日裏の手が伸びる。
「ひゃんっ」
魔尾を握られ、情けない声が漏れる千条。
タイマーは00:03を表示していた。
魔尾は日裏の元に移り、3秒のクールタイムが始まる。
それは実質戦いの決着を表していた。
制限時間終了のブザーが鳴る。
「勝負はそこまで!今回の勝者は日裏湊だ」