マビモギ
「マビモギ……?」
頭にはてなを浮かべる生徒たち。
名前から想像できない以上、続きの説明を待つしかない。
「魔尾、つまりは魔獣の尻尾だな。これを奪い合い、最後に持っていた者が勝者となる」
「それって、ただのしっぽとりなんじゃ……」
至極真っ当なツッコミが生徒からとんでくる。
紅崎はそんな意見も想定内とばかりに話を続ける。
「当然ながらただのしっぽとりではない。魔尾は装着している者の魔力を増幅させる。魔尾を持っているものは自ずと全員から狙われることになるが、その多対一に常時以上の力で臨むことができるわけだ」
当然ながら奪い合いに魔法の行使など何でもありだろう。
噛み砕かれた説明に生徒たちはこのゲームの肝を理解していく。
確かに通常のしっぽとりでは、早くにしっぽを奪取すれば多勢の的になり、終了までの制限時間を生き残るのは困難を極める。
しかし、マビモギでは魔尾を保持していることがリスクになると同時にアドバンテージにもなる。
序盤から魔尾を得て守りきる戦い方がより現実的なものとなり、逆にごっつぁんゴールを狙う戦略もありだが、制限時間内に奪取できないかもしれないという焦りと戦うことになる。
成程そう考えると確かにただのしっぽとりとは一線を画したゲームと言えるかもしれない。
「レクとはいえ真剣に取り組んでもらいたいから、なんと豪華賞品も用意しているぞ」
勝者には豪華賞品、そんな分かりやすく吊り下げられた人参にも目を輝かせてしまう生徒は少なくない。
目には見えないが、生徒たちへのゲームへの熱は上がったことだろう。
「先生、最初の魔尾は誰が持つんでしょうか」
千条と名乗っていた少女が手を挙げて質問をする。
「お、質問か。やる気が上がったようで結構。最初の魔尾はランダムに配られることになる。運も実力のうちということで恨みっこはなしだ」
「ありがとうございます」
「ほかにも質問があったらどんどん来い」
紅崎は周囲を見回しながら、前のめりな姿勢を歓迎する。
谷見もその流れに乗って、挙手をした。
「他者の妨害に魔法を使用するのもありでしょうか」
「もちろんだ。ゲームの性質上、魔尾を持つ者を他の全員が狙う構図にはなりやすいだろうが、どちらにせよ魔尾を獲得できる者は一人。隣に並んで戦う者とも蹴落としあいであることは変わりない」
そこで言質を得たりと、日裏のことをにらみつけてくる谷見。
日裏はそれには反応を示さず、聞きたいことを聞く。
「魔尾が他の者に渡るとき、具体的にどうなるのか知りたいです」
「相手から魔尾を奪うときは単純明快、魔尾をぎゅっと握ればいい。そうすれば所有権は握った者に移る。触れるだけだと同時に複数人が接触した場合など判定が難しいからな。あとは魔尾が移った直後に握り返してそのままいたちごっこが始まっても面倒だから、クールタイムは3秒設けることとする。魔尾を手に入れた直後の3秒は握られても大丈夫だ」
鬼ごっこでいうタッチ返しをなくすためのシステム、それが3秒のクールタイム。
3秒あれば立て直しも図れるため、奪取直後の横取りなども防げるだろう。
取って取られての泥仕合は避けられそうだ。
これ以上手の挙がらない教室を見渡して、紅崎は告げる。
「質問は済んだか?賞品の争奪戦ではあるが、当然敗北のペナルティはない。何より交流の機会として楽しんでくれたまえ」
言い終わると同時にぱちんと指を鳴らすと、瞬時にクラスの全員が体育館に移動した。
教室に設置されていた転移の魔法が発動したのだろう。
突然の出来事で、驚きに目を丸くする生徒もいたがそんな悠長にしている暇はなかった。
「それでは……開始だ!」
紅崎が指を銃に見立てて天に向けると激しい音とともに火を吹き、まさしく戦いの火蓋が切られたのだった。