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ようこそ魔法学園へ

 当たり前じゃないことを実現する魔法が当たり前なこの世界。


 この日ついに星海魔法学園ほしうみまほうがくえんの門をくぐり、男は新たな一歩を踏み出した。




「私が1-D担任を務める紅崎陽菜あかさき ひなだ。この学園にようこそ、魔法を究めんとする者たちよ」


 快活な声が教室に響き渡る。

 声量が大きいというよりは通りやすいはっきりとした声だった。


「では早速自己紹介といこう。魔法学園らしく、名前と固有魔法を言ってもらおうか」


 固有魔法とは生まれながらにひとりひとりに備わっている魔法のこと。

 魔法は先天的にその属性が決まっている。


「はい、千条久澄せんじょう くすみです。水魔法を使います」


 凛とした佇まいの少女が落ち着いた様子で答えた。

 立って座るだけの動作だったが、その端麗さに一部の男子生徒からは声が漏れる。


 変えられない運命を人は才能と称する。

 自分の生き方を左右する人生1度の魔法ガチャ。 


「私は吾妻美鳴わがつま みなり。使うのは雷魔法だ」


 金髪の威圧感を持った少女が言い放つ。


 そのまま自己紹介は次々と進んでいき、最後の一人になる。


日裏湊ひうら みなと。固有魔法は影魔法」


 その自己紹介に教室がざわついた、正確には影魔法という言葉に。

 クラスの幾人かから注目が集まる。

 向けられる視線に込められているのは憐みか、嫌悪か。


 授かる魔法をガチャと喩えるならば、そのはずれ枠が影魔法だ。

 影魔法は強くなれない未来を決定づけられた格下の魔法。

 そんな世界の共通認識が今の教室内の喧騒を作り上げていた。


「ふん、笑いものだな」


 ざわざわとする中で、はっきりと声にしたのは先ほど炎魔法の使い手だと自己紹介していた男子生徒だ。

 顔や話し方から自信満々な様子を漂わせる男は、険のある口調で続けた。


「恥ずかしげもなくよく教室にいられるものだ」


「だとさ。制服のタグがつきっぱなしなくらいで、そこまで言わなくてもいいのにな」


「え、あ、ほんとだ」


 くるっと振り返った日裏にそう告げられた後ろの座席の女子はそこで自分の制服から卸したてであることを象徴するシンボルがはみ出ていることに気づく。

 あわてた様子で、はみ出したタグを夏の蛍をつかまえるかのように両手で覆った。


 やり場のない微妙な恥ずかしさから、その女子は口火を切った最初の男子生徒に恨めしげな視線を向ける。


 意図しない展開、初対面の女子からの抗議の目に男子生徒は焦った様子で弁解を始めた。


「誤解だ、僕にそんなつもりは。おい貴様!僕はお前に言ったんだ、事態をややこしくするな」


「悪意をもった言葉をむやみに振りかざすべきではない良い例だな、ミニバン」


「誰だそれは!自己紹介を聞いていなかったのか、僕の名は谷見万たにみ ばんだ。どう間違えばそうなる」


「いや、色々と小さそうかなと」


「な、何がだ」


「うーん……器とか?」


 ふふっ、と先ほどの女子を含め、周囲の数人から笑い声がもれる。

 これは当事者としてはなかなかに居心地が悪い。


 雰囲気にのまれた谷見は今にも顔から火が出そうな様相であった。

 さすがは炎魔法の使い手だ。


「貴様許さんぞ」


「逆恨みにもほどがある」


「はいはーい、入学初日から血の気が多いな君たち」


 紅崎は谷見と日裏のやりとりにカットインした。

 

「ただ級友の実力が気になるという気持ちは非常に分かる、分かるぞー」


 そこまで言って一拍置くと、にやりと口の端を上げた。


「そこでだ、今からレクリエーションを行って、クラスの親睦を深めるとしよう」


 おそらくは最初から決まっていたであろう流れに紅崎は話を持っていく。


 レクリエーションというワードに、素直に心躍らせる反応をする者もいれば、これから何が始まるのかと緊張感を顔に滲ませる者もいて、反応は様々だ。


「待ちきれないって顔だな。それでは発表しよう、今から行うのは……マビモギだ!」

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