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65話 軍師、さらに攻める

「旗を掲げろ!! 勝鬨を上げろ!!」


 ネアのよく通る声が響くと、防壁の上に帝国と白獅子隊の旗が翻った。


「見たか!! これがアルシュタートにその人ありと言われたアキト殿の策だ!!」


 シスイも刀を掲げ高らかにアキトの名を宣っていた。

 アキトはいや違うと言うが、他の白獅子隊の騎士が返す歓声にかき消されてしまった。


 一方のレオス砦を守っていたゴブリンとオークは砦の門から我先にと逃げていく。


 レオス砦は陥落した。

 アキトが軍師を務める白獅子隊の手によって。


 東砦の救援に差し向けた増援は急ぎということもあって皆軽装だった。一方の白獅子隊は皆重装の騎士たち。

 野戦で兵力を喪失したレオス砦守備隊は、アキトの師駒の猛攻もあり砦をたやすく明け渡すこととなった。


 ネアはアキトのもとへと駆け寄ると興奮気味にその策を称えた。


「アキト殿! 実に見事なお手なみだった……! 蛇も狼も動くとは思わなかったし、ここまで容易にレオス砦を落とせるとは!」


 一方のアキトは静かな口調で答える。


「白獅子隊の皆の士気と練度が高いからだ。被害のほうは?」

「今のところ深傷を負った者が三名。軽傷者が八名といったところだ。信じられないことだが、死者は出ていない。アキト殿の師駒のおかげでな」

「そう、か」


 強張っていたアキトの表情が少しほぐれた。


 普通であれば致命傷になる傷を負った者がいたのをアキトは見ている。


 フィンデリアのおかげで死者を出さずに済んだ……

 犠牲を最小限にしたいアキトにとって、何よりも嬉しい報告だった。


 アキトはそれから東と西の二つの砦を見やる。


「東西の砦にも帝国旗が上がっている。金蛇も青狼も砦を落としたようだ」

「ああ。フルヴァンとセオドールも驚いているだろうな。アキト殿に踊らされたと」

「喜べるようなことじゃない。そもそも皆で協力できていれば、もっと良い手も打てたかもしれない……いや、今のは忘れてくれ」


 士気が下がるようなことを言ってしまったと、アキトは後悔する。


 しかしネアは何やら愉快そうに口角を上げた。


「……アキト殿は本当に国士だな。あのような俗物ですらも仲間と見なしている。私も見習わなければ」

「俺はそんな高尚な人間じゃない。ただ、アルシュタートと大陸西岸を守るために全力を尽くしているだけだ」


 アキトはそう言うと、こちらに向かってくるリーンに顔を向ける。


「アキト様! 偵察を済ませて参りました!」

「休む暇もなく悪いな。レオス砦への撹乱もよくやってくれた」


 アキトは東砦を攻める際、リーンにある命を下していた。

 ゴブリンに化けさせ、東砦の伝令としてレオス砦に援軍を要請したのだ。


 リーンは言う。


「レオス砦の者たちは何も疑いもせず、東砦への援軍を出しましたよ! アキト様の狙いには全く気づいていないようでした!」


 実際に目の前で東砦が攻撃されているのだから、リーンの言葉が疑われる可能性は低かった。アキトが何もしなくても、東砦に援軍を出していただろう。

 

 それでもリーンを派遣したのは、確実に、そして少しでも早くレオス砦から守備隊たちを釣り出すため。


 この上なく円滑に事が進んだ。死者もいない──アキトにとっても満足できる戦果のはずであった。


 それでもアキトが喜べないのは、仲間であればすぐに助けに向かうという北魔王軍の姿勢が羨ましいからだ。


 対峙する軍師として付け込みやすい弱点ではある。しかし仲間であればこの上なくありがたい話だ。長い目で見れば、仲間同士の信頼は強力な武器になるだろう。


 一方の帝国は──


 同じ国の者同士でいがみ合う自分たちと比べ、アキトは北魔王軍を羨ましがっていた。


 向こうに優秀な軍師がつけば、今度はこちらが不和を突かれる可能性だってある。そうなる前に、なるべく早く決着をつけなければ。


 アキトは表情を引き締め、ネアに言う。


「ネア殿。目的の砦を落としたばかりだが、すぐに次の計画を進言したい」

「聞かせてくれ。我らはまだまだ戦える」


 ネアは力強い口調で答えた。


「ありがとう、ネア殿。まずは現状を確認しよう。俺たちは敵の要塞線の奥にあるレオス砦を攻略した。戦列に風穴を開けることに成功したと言っていい」

「今後騎士団は、このレオス砦を経て敵の背後へ浸透する。騎士団長たちもすぐに部隊を送ってくるはずだ」

「ああ。しかし、後方への展開は速ければ速いほういい。近くの砦の者たちは今、レオス砦が落ちたと聞いて混乱しているだろう」

「今が一番、敵を攻める好機というわけだな。確かに、我らが全員ここにいてももったいない」


 アキトは首を縦に振る。


「そうだ。だから増援を待たずに、俺たちも動きたい。隊を二つに分ける。負傷者を含む五十名は、このレオス砦に。そして残りの五十名で、近くの砦を攻める他の騎士団を支援する。こちらが後方から突いて挟撃するんだ。俺の師駒もいれば、半数でも十分支援になる」


 ネアは迷うことなく即座に頷いた。


「すぐに取り掛かろう! ……元気な者は集まれ! この機を逃さず、次の砦を攻撃する! 戦はまだまだこれからだ!!」


 ネアが騎士たちに呼びかけると、先ほどよりも大きな歓声が返ってきた。


 白獅子隊はレオス砦を落とした勢いを駆って、リール丘陵の砦を続々と陥落させていくのだった。

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