49話 ドラッセンの戦い⑥
「なんだ、あれは!?」
巨大な象の白骨を見て、連合軍の兵士たちはざわつき始める。
その城のような大きさだけでも驚きなのに、それが地響きを立てて歩行しているのだから唖然とするしかない。
しかも、先頭の一体の後方から、さらに十体ほどの巨骨象が現れる。
アキトは、ドラス平野に至るまでの道にあった足跡を思い出した。
あの足跡の正体は、あいつらか──
アキトはすぐにシスイとアカネに顔を向ける。
いつもなら真っ先に強敵に向かう二人だが、今はアンデッドと戦いつつ巨骨象たちの様子を窺っている。
無理もない。あの巨骨象を刀と弓で倒すのは至難の技だ。生きているならともかく、あれもアンデッドの類で間違いないから、一度倒せてもすぐに復活してしまう。
だから、操っている者を狙うしかないのだが──
巨骨象の周囲に随伴する人影は見えない。空にも、それらしき者の姿はなかった。
もちろん姿を消す魔法もあるから、姿を隠しているだけかもしれない──いずれにせよ、操っている者が見えないのだ。
これでは、神がかり的な狙撃を見せるシスイとアカネでもお手上げ。
混乱する面々だが、アキトはマシアスにこう告げる。
「──マシアス殿、奴には挑まないよう、全軍に伝えてくれ」
「わ、わかった! 各隊に、あの巨骨象には近寄らないよう、命じろ!」
マシアスはすぐに部下に命令を伝え、各方面へと派遣する。
だが、その指令を前に、一部の部隊が巨骨象へと向かっていった。
「待て!!! くっ!!」
マシアスは雲の上にも届くような大声を巨骨象へ向かう部隊に響かせるが、引き返す気配はない。
戦況は圧倒的にこちらが有利。
勢いのままに倒せると考えたか。
やがて先頭の巨骨象はその部隊へと頭を向け、突進を始める。
「あれは……鎧?」
前方から見た際は見えなかった巨骨象の胴体は、鉄板で覆われていた。巨大な馬鎧を身につけていると言っていい。
──復活するアンデッドにああいう鎧を着せる……巨骨象の防御力を上げるためだろうか?
しかし、頭には被せていないし、後ろの巨骨象には同じような鎧はなかった。
もしかするとあの鎧の下には、弱点がある?
弱点とは、当然、操っている者のことだ。
そんな中、巨骨象に向かっていた人間の部隊が、突如停止し、皆蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
敵は自分たちの十倍以上の大きさ。
それが何体もいるのだ。
流石に勢いだけで立ち向かえる相手ではなかったようだ。
皆が巨骨象に注目する一方で、周囲の戦況にも変化があった。
ついに周辺のアンデッドが倒れたのだ。
最後の吸血鬼は、シスイとアカネによって射止められた。
二人はアキトの元に駆け寄って言う。
「アキト殿。申し訳ござらぬが、某たちでは良い策が浮かばぬでござる」
「無理もない。俺も、あれほどのアンデッドがいるとは思わなかった……だが、皆がいれば、勝てない相手じゃない」
加えて、巨骨象以外のアンデッドはほとんど倒されている。
まだこちらへ到達するまで距離があるから、時間もあった。
アキトは自らを落ち着かせ、まずマシアスにこう告げた。
「マシアス殿。全軍に一旦、横隊陣形を組ませてほしい。だが、敵が接近したら、各自に自由に逃亡させてくれ」
「足止めもせずに、か?」
「ああ。敵の目をそちらに向けさせている内に、俺の師駒が攻撃する」
「それはいいが、どうやって?」
「俺の師駒にやらせる」
「任せて……いいんだな?」
「ああ。必ず俺たちが倒す」
「わかった……必ず、生きて帰ってくれ」
アキトがこくりと頷くと、マシアスは部下と共に部隊を集結させる。
「よし。今言ったように、俺たちが奴らに攻撃を加える。まず、ヴォルフ、リーン。お前たちには、それぞれ敵の一体の惹きつけてほしい。そして他の巨骨象とぶつかるよう、仕向けてほしいんだ」
ヴォルフとリーンは頷くような仕草を見せる。
リーンはアキトの策をこう分析した。
「なるほど、巨体同士をぶつけ合わせるということですね。しかし、術者がそれを許すでしょうか?」
「術者は、自分の身を守るので手一杯にする。シロ、君にはシスイとアカネを乗せて、先頭の巨骨象の周囲を飛行してほしい」
アカネはそれを聞いて、こう訊ねる。
「つまりは、あの鎧の巨骨象の中に、術者がいると?」
「そういうことになる」
「あの鉄板と骨の中ですか……これは骨が折れそうですね」
難しそうな顔をするアカネだが、シスイのほうは自信満々といった顔だ。
「中に術者がいるなら、視界を確保する必要がある。針穴ほどでも隙間があれば、見事射抜いてみせましょう。シロ殿、世話になるでござる」
「悪いな、シロ。しかし安全に攻撃するのは君の力が必要だ」
シロは気にするなと言わんばかりに、首を振った。
アキトは次にフィンデリアや第十七軍団の者たちに顔を向けて言う。
「他の皆は、俺と南の森へ入る。俺たちが狙うのは、巨骨象ではなくドラッセン城だ。もし、シスイたちが巨骨象に苦戦したとしても、城に手勢が向かっているとなれば、巨骨象を城に引き返させるはず。城にもいくらか手勢は残っているだろうから、戦うつもりでいてくれ」
「はっ!」
第十七軍団たちの者は皆、元気な返事を返した。
「よし……それでは作戦開始だ。これを乗り切れば勝てる。皆、頼んだぞ」
「おう!!」
こうしてアキトたちは、それぞれの持ち場へと向かっていくのだった。




