44話 ドラッセンの戦い①
アキトたちがエルハーゲンへと帰還した翌日。
早朝からアキトの驚くことがあった。
リーンがアルスから戻ってきたのだ。それもフィンデリア、そしてシロを伴って。
「スーレが許可をした、か」
兵舎の一室。リーンからの報告を聞いたアキトは目を瞑って答えた。
詳細を聞かずとも、スーレがこちらを思いやってくれたことがわかる。フィンデリアだけでなくホーリードラゴンのシロまで送ってきてくれたのは、アキトをはじめ誰も失わないようにと。
結果、フィンデリアとリーンはシロに乗って、このエルハーゲンに急行できた。
フィンデリアもシロも、やる気に溢れた表情だ。全く不安は感じられない。
「セプティムスは何か言っていたか?」
「何名か北から避難してくる者がいる以外は、特に問題もないと仰ってました。スーレ様がシロも行かせたいと言ったら、むしろいい案だと賛成してました」
「そうか」
アルスは心配ない。セプティムスはそう判断したのだろう。
とはいえ、南魔王軍がいつ動くかも分からない。切り札であるフィンデリアを送るのは悩んだはずだ。
しかし、早く北の動乱を収めるほうがアルシュタートにとってもいい──セプティムスハそう考えたのだろう。
アキトは心の中で、セプティムスとスーレに感謝する。そして必ず、吸血鬼たちを討伐すると決意を新たにした。
その日はリーンとヴォルフに、ドラッセン周辺の偵察を命じさせた。途中、ノルトアルスからコルベスが救援を送ってくれるという連絡もあった。
そしてその二日後の昼。マシアスが嬉々とした顔でアキトの部屋を訊ねてくる。
「アキト殿。各方面に送った増援要請だが、少なくない者たちが手を貸してくれると返事をしてくれた」
「そうか。どれぐらいになる?」
「昨日聞いたノルトアルスの手勢と合わせれば、三千にはなる」
「そんなにか」
「墓地周辺の警備をすることで、アンデッドの増加が止まったようだ。それもあって協力してくれたのだろう。すでに、このエルハーゲンに向かってくれているようだ」
「ありがたい。時間が勝負だ」
「ああ。長引けば長引くほど、不利。皆、それが分かっているから兵を出してくれたんだ。私と同じように捨て駒にされた者が多いからな。現状は分かっているはずだ」
マシアスはそう言うと、地図に援軍を送ってくれた者たちの名を書き連ねていく。
「俺だけでは不安だったが、これで逆包囲するのに十分な将兵が揃った。あとは、アキト殿たちだが」
「俺たちは気にしないでくれ。心強い仲間も加わったからな」
そう言ってアキトたちは、兵舎の外で談笑している師駒たちを見る。フィンデリアとシロ。この二名がいることで、安全に囮を務めることができるのだ。
マシアスはアキトの顔を見ると、安心したのか口角を上げて言う。
「自信満々だな。アキト殿の策には何の疑いもない。こうして敵を炙り出してくれた。アキト殿は、優秀な軍師だ」
「買い被りすぎだ、マシアス殿」
「そんなことはない、あのバルダー殿とは比べ物に……ともかく、次の戦い、必ず勝とう」
「ああ。必ず勝って、ノルデン、そして西岸の平和を取り戻そう」
その言葉にマシアスは少し複雑そうな顔を見せる。だが、こくりと頷いた。
それから翌々日、アキトは手勢を率いて、マシアスらの部隊に先行する形でドラッセンへと向かうのだった。




