↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/75

42話 軍師、鎌をかける

 ソルヘイムの衛兵詰所の一室。

 その中にある監獄に、先ほどアキトたちが捉えた吸血鬼が入れられていた。


 ひとしきり抵抗を試みた吸血鬼だが、拘束を解けないと悟ったのか今は腰を落とし大人しくしている。口に噛まされていた縄も外し、自由に喋ることができる状態だ。


 アキトは檻の向こうの吸血鬼に問いかける。


「名前は?」

 

 アキトの言葉をリーンが訳す。


 しかし吸血鬼は目を瞑り、知らん顔だ。


 当然、アキトも簡単に答えてくれるとは考えていない。


 ──だから、まずは喋らせる必要がある。


 アキトはリーンと顔を合わせ頷く。

 

 するとリーンは頷き返し、見る見るうちに姿を変えていった。


「っ!?」


 それを見た吸血鬼は一瞬目を見開く。


 無理もない。スライムが自分と同じ姿になったのだから。


 しかし吸血鬼はすぐにまた目を瞑り、無表情を装う。


「こいつは、お前の姿に変身できる。お前の仲間を誘い出すために、動いてもらうつもりだ


 アキトはそう言って、その様子をよく観察する。


 ……強がってはいるが慌てているはずだ。


 吸血鬼が今考えているのは、自分の姿が利用されてしまうだろう、ということ。


 とはいえ、姿だけだ。他の吸血鬼と話せば、すぐに正体がばれてしまうだろう。リーンが吸血鬼の姿でできることは限られるのだ。


 この吸血鬼もそれは当然理解している。だから尚更、思うだろう。絶対に情報は明かさない、と。


 しかし、吸血鬼はアキトのやらんとしていることを知った。自分に変身するスライムを使い、自分たちの組織へ何かしらの工作を行おうとしているのだ、と。


 今は体も動かせない状態。しかし、機会があれば脱走したいし、少しでも人間側へ損害を与えたい。そこまでできなくても、この失態は帳消しにしたいはずだ。


 ずっと黙って動かないよりは、向こうも何かしら手を打ちたがるだろう……アキトは、そう考えた。


 だから、アキトは思ってもいない言葉を口にする。


「ずっと黙っているつもりか? ……仕方ない。少し痛めつけて、吐かせるとしよう」


 その言葉に、シスイが棍棒を手に檻の中へと入る。そして試し打ちとばかりに、石の壁を棍棒を力いっぱい叩いた。


 耳を塞ぎたくなるような音が響き、詰所自体がぐらぐらと揺れる。シスイの棍棒は折れてしまっていた。


 吸血鬼もこれには思わず体をびくつかせる。


「ふむ……それがし、加減という物を知らぬからな。気を付けなければ」


 そう言って新たな棍棒に持ちかえるシスイ。すたすたと吸血鬼の後ろへと向かう。


「それでは始めさせてもらう。よく歯を食いしばって──」

「待て! 待ってくれ!」


 吸血鬼は突如、人の言葉でそう訴えた。


 もともと人里に潜入するぐらい。人語を話せたとしても何もおかしくない。


 ……ようやく、口を開いてくれたな。


 アキトは相手を上手く誘導できたと内心で喜ぶ。しかし表情は緩めない。


「突然、どうした?」


 アキトが問うと、吸血鬼は焦るような表情で答える。


「こ、こんなやつに叩かれたら一瞬であの世行きだ! 俺はまだ死にたくない!!」

「だが、お前は俺の質問にも何も答えない」

「こ、答える! なんでも答える! そ、そうだ! 仲間の場所を知っている! そこにそのスライムを行かせればいい!」

「仲間がいるのか?」

「あ、ああ。近くに、仲間の拠点があってな。あまり大勢で接近すれば怪しまれるだろうが、一人なら大丈夫のはずだ。そのスライムは魔物の言葉も使えるし、上手く紛れることができるだろう」


 アキトはその言葉に悩むような表情を見せる。


 やがて、こう訊ねる。


「嘘だったらどうする?」

「嘘だったら殺せばいい。もっとも、俺は死にたくない。嘘なんか吐かねえよ」


 嘘の可能性は限りなく高い。二回も自決を試みたのだ。彼は、目的のためなら自分の命を犠牲にすることができる。


 リーンをそこへ誘い、殺すか捕まえるかさせる。当然、リーンが偽物であることは分かる。だから自分が捕らえられたか死んだか、いずれにせよ異常があったことを伝えられるというところか。


「分かった……ともかく、その場所を教えろ。シスイ、地図を」


 シスイはアキトの声に頷くと、吸血鬼に地図を見せる。それから吸血鬼に、仲間の場所を指ささせた。


 この場所に吸血鬼の仲間がいる可能性は高い……だが、もう少し鎌をかけたいところだな。


 アキトはシスイから受け取った地図を見ながら言う。


「ここか。シスイ。今動かせる兵は、どれぐらいだ?」


 その言葉に、シスイは一瞬不思議そうな顔をした。


 しかしシスイはリーンを見てリーンではなく、自分に訊ねたということに気が付いた。正直に答える。


「百名ほど、でござる」

「そうか。おい。ここにはお前の仲間はどれぐらいいる?」


 その問いに、吸血鬼はしばらく沈黙する。だがやがて、こう答えた。


「じゅ、十人ぐらいだな」

「なるほど。では、五十もいれば事足りるな」


 アキトがそう言い放つと、吸血鬼は少し焦るように聞き返す。


「ま、まさかその拠点を攻めるつもりか?」

「相手が十人なら、五十人で十分勝てるだろうからな」

「ま、待て……嘘を吐いた! 仲間は千人いる! やめておいたほうがいい!」


 必死の形相で訴える吸血鬼。


「その焦りよう……敵はやはり五十人以下、というところか」

「ち、違う!! 仲間は千人いる!! 十人というのは嘘だ!!」

「もういい。シスイ、檻を閉めろ。皆、行くぞ」


 そう言ってアキトは詰所の牢獄を後にした。牢獄を出ても、さっきのは嘘だという吸血鬼の叫びが響く。


 シスイは首を傾げながら訊ねる。


「つまり……本当に十人ということでござるか?」


 それを聞いたリーンはこう答えた。


「いえ、十人ではないでしょう。アキト様がシスイ様に兵の数を聞き、その後吸血鬼に人数を聞いた時点で、あの吸血鬼は拠点を攻めるつもりだと判断したはずです」


 アキトは頷いて答える。


「こっちの手勢は百と知っている。攻めさせたくないなら、最初から百以上の数を口にすればいい」


 シスイはようやく合点がいったようだ。


「つまり、五十から百の手勢でも攻められると信じさせるため嘘を吐いた……拠点の戦力は少ないと思わせたかったわけでござるな」

「そういうことだ。全部、芝居だ。五十でも、百でも拠点に送ればいいと考えてな」


 リーンは少し不安そうに言う。


「結構な戦力がいることは分かりました。ですが……そこに行けば、実際に人間百名以上の戦力が控えているわけですよね?」

「ああ。不思議でもない。一万以上のアンデッドが確認されているんだ。数百のアンデッドがいると見ていい」

「情報を得られたのはいいですが、一筋縄ではいきそうもないですね」

「そう、だな。だが、リーン。敵の特徴を思い出してくれ」

「……あ! そうでしたね。アンデッドを操る者、つまり吸血鬼を倒せばいいと」

「そういうことだ。吸血鬼自体は、そこまで多くないだろう」


 それを聞いたシスイは拳を作って言う。


「某の弓で見事射抜いてやりましょう!」

「シスイ様とアカネ様がいれば、問題ございませんね!」


 そう答えるリーンにアキトも頷く。


「加えて、俺の言う手勢百は、俺の師駒百名のことだ。皆が、第十七軍団の精鋭たち。戦闘面では何も不安はない。ただ」

「ただ?」


 リーンが訊ねると、アキトは街の外のほうへ顔を向ける。


「アンデッドの中には、最近アンデッドになった者もいる。スケルトンだけでなく、生前の姿に近い者もいる。どうにも気持ちがな」


 シスイも神妙な面持ちで頷いた。


「確かに、遺骨が相手でもなんだか罰当たりな気がするでござるからな」

「ああ。とはいえ、そうも言ってられない。それに吸血鬼を倒していけば、アンデッドとの戦闘は最小限で済む」

「某と師駒一同、尽力いたします! とはいえ、一つ気になったのですが、彼らを戻す手立てはないのでござろうか?」

「ネクロマンスの術が切れているのと、アンデッドになって間もないという条件が揃えば、治す薬はある。しかし、とても高価な上に希少だ……この西岸地域ではまず手に入らない」

「そう、でござるか。あ、いや、フィンデリア殿のあの癒しの術ならどうなのかなと思いましてな」

「フィンデリア……確かに、あの術なら」


 可能かもしれない──


 リーンが言う。


「私が呼んでまいりましょう」

「そうだな……だが、フィンデリアの力があれば、多くの人を救うことができるかもしれない」


 アキトは頷いて言う。


「リーン、アルスへと飛んでくれ。ただし、セプティムスが無理と判断した場合は、フィンデリアを連れていくのは諦めてくれ。俺はこの後、エルハーゲンへと向かう。そこで落ち合おう」

「承知しました! それでは」


 リーンはすぐさま鳥の姿となり、詰所の外へ飛んでいく。


「シスイ。今言ったように、俺たちは一度エルハーゲンに帰還する。拠点の周囲についてマシアスから情報を得たい。他の街の墓地についても知りたいからな」

「承知いたした!」


 そうしてアキトたちはエルハーゲンへ、リーンはアルスへと向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。