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38話 軍師、協力を申し出る

 ノルデン伯の屋敷を訪れた後、アキトはエルハーゲンの兵舎に向かった。


 兵舎の会議室に案内されたアキトは、ノルデンの将マシアスに頭を下げられる。


「先ほどは申し訳ない、アキト殿。非礼をお詫びする……」

「気にしないでくれ。軽く見られるのは慣れている」


 アキトがそう答えるも、マシアスは申し訳なさそうな顔で続ける。


「こんなことになってしまったが、先程の件はなんとしてもお願いしたい……アルシュタート大公には、どうか一人でも多く我がノルデンの避難民を受け入れていただきたいのだ」

「もちろん、受け入れる。ノルデン伯の態度で俺たちが何かを変えるつもりはない」


 アキトの返事を聞いて、マシアスはホッとするような表情を見せる。


「ありがとう……アルシュタート大公はとても寛大なのだな」


 マシアスはそう言うと、どこか寂しそうな顔で窓から外を見る。


 窓の外には、今もどこからか逃げてきたのであろう多くの避難民で溢れていた。


 彼らに対しノルデン伯は何の支援もしない。それどころか自らは領地を捨て、帝都へと逃げるつもりだ。


 アキトはマシアスの内心を察する。マシアス自体は故郷を愛し、守ろうとしている。


 しかし、ノルデン伯はその故郷を金のなる木としか見ていない。そんな男に仕えていることに絶望しているのだろう。


 やがてマシアスはアキトに顔を向けて言う。


「食料すら持たせられず申し訳ないが、早く帰還したほうがいいだろう。あの勢いでは、アルシュタートにもすぐにアンデッドの軍勢がやってくる。今のうちに防備を整えておくんだ」


 アキトは首を横に振る。


「その防備のために、俺たちは北へ来たんだ。ノルデンをはじめとする西岸北部を守れなければ、俺たちも終わりだ」

「……とすると、ここに残って戦うと?」

「ああ。今、ノルデン領の軍隊は、あなたが指揮している。俺たちに行動の自由を与えられると思うが?」


 マシアスは顔を曇らせ、しばらく沈黙した、だがやがてこう答える。


「……私も長年、北魔王軍をはじめ魔物たちと戦ってきた。しかし今回のアンデッドの侵攻は、前例のない速さで進んでいる。はっきりと言おう……ノルデンは、もう終わりだ。お主たちが心中する必要はない」

「事態が好転する見込みはない……マシアス殿はそう考えているんだな」


 深く頷くマシアス。


「ああ……かくなる上は、一人でも多くの領民を逃す。そしていつか、逃げ延びた者にノルデンを再興してもらう」


 すでにマシアスは覚悟を決めていた。

 領主とは違い誠実な男だとアキトは感心する。


 だが、アキトからすればまだ諦めるような状況ではない。


「マシアス殿。諦めるのは早い。敵の頭……アンデッドを操る主を捕まえれば、アンデッドは動けなくなる」

「敵は万を超すんだぞ? 対して、こちらの兵は二千ほど……どうやって探す? 護衛も多いだろうに」

「俺に一つ、策がある。マシアス殿は、もちろんノルデンの地理には詳しいな?」

「生まれてこの方、ずっとノルデンで暮らしてきた。周辺の他の北部諸侯領も含め、庭のようなものだ。大して広い地域ではないからな」

「それは心強い。なら、ノルデンや他の諸侯領の地図を持って来てくれないか? 力を貸してほしい」


 アキトの申し出を聞いて、マシアスは言葉に詰まる。


「力を貸してほしい、か……」

「ああ。俺たちは、慈善事業でここに来ているわけじゃない。北部の安定は、アルシュタートの安全に欠かせない。だからなんとしても、ノルデンを守り抜く必要がある」


 マシアスはこくりと頷く。


「分かった……なら、私からも言わせてもらおう。どうか、ノルデンに力を貸してほしい」


 手を差し出すマシアス。


 アキトもその手を取って言う。


「もちろんだ。協力して、この危機を乗り越えよう」


 握手を交わすアキトとマシアス。


 こうしてアルシュタートとノルデンは共闘することとなった。

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