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26話 軍師、北を目指す

「ふむ。これが蝙蝠の魔物たちをいる場所への鍵となると」


 シスイは俺の手にある牙を見て言った。


 隣に立つアカネが訊ねてくる。


「では、この匂いを頼りにヴォルフ様に捜索してもらうわけですね」

「近ければ、当然そうしたいが……ヴォルフ、どうだ?」


 すでに四方へ鼻を向けていたヴォルフは、アキトの声に振り返ると首を横に振った。


「近くには、いない。ヴォルド周辺に限って言えば、安全は確保できたと思っていいだろう」


 だからとアキトは続けた。


「次の町へ向かおうと思う。ヴォルフ、お前はヴォルドに戻って防衛に戻ってくれ。後々、アルスから仲間を派遣してもらうつもりだ。もし蝙蝠の魔物を発見したら、そいつらに伝えてくれ」


 ヴォルフは深く頭を下げると、ヴォルドのほうへ走っていった。


「リーン。今言ったように、ヴォルドにさらに連絡と防衛の要員が欲しい。悪いが、アルスに一度帰還し、セプティムスに、ヴォルドに仲間を派遣するよう伝えてくれるか? 一応、ヴォルドでの出来事と蝙蝠の魔物についても伝えておいてくれ」

「かしこまりました! それで、アキト様はどちらに?」

「俺たちは先に北のノルトアルスに向かう。そこで落ち合おう」

「承知しました!」


 リーンはそう答えると、アルスのほうへ飛んでいった。


 ノルトアルスはアルシュタート領の中でも、最北の街だった。周辺の農村の人々も売買に訪れる大きな市場があり、低いながらも城壁を備えている。


 南魔王軍が南からやってくる関係上、領地の中でも比較的魔物による被害が少ない地域でもある。


 ヴォルドのように、ほとんどの者がアルスには行かないだろう。

 それでも相互の連絡体制などを復活させておきたかった。領地北方全体の情報もそこに集まっている可能性が高いからだ。


「それじゃあ、俺たちは北へ向かおう」


 アキトの声に首を縦に振るシスイとアカネ。


 こうしてアキトたちは北方へと向かうことにした。


 アキトたちは広大な平野の中、ボロボロの石畳の道を進んでいく。視界の左には広大な海岸が映り、なんとも長閑な光景が続いていた。


 やがて日が暮れたので、アキトたちは小さな小屋で一夜を過ごす。


 翌朝まだ朝焼けの時間に目を覚まし、再び北へと歩き出した。


 太陽が姿を表す頃には、周囲の風景が農村へと変わっていく。


 やがて街道を行き来する人も多くなると、アキトたちの目の前に大きな街が見えてきた。


「ここがノルトアルスか」


 シスイとアカネはノルトアルスの城門を見て言う。


「立派な門でござるな」

「ヴォルドと違って、門番のお方も鎧を身につけておいでですね」


 アカネの言う通り、街には重装備の衛兵が立っていた。


 これなら、数百ぐらいの魔物なら来ても防げそうだ。


「まずは領主と会おう。コルベスという騎士が領主のはずだ」


 先代のエリオの時代からアルシュタートに仕える騎士。最近ではアルシュタットに来る機会はあまりなかったそうだが、忠実な男とアルスの人々は言っていた。


 アキトは早速、コルベスに会おうとノルトアルスへ入ろうとする。


 しかし槍を持った門番が立ちはだかる。


「武器を持っているな。どこから来た?」

「俺たちはアルシュタート大公の軍師だ。大公の名代としてやってきた」


 そう答えると、門番が顔を合わせて笑う。


「アルシュタットはもう陥落した。大公はきっと……嘘をつくならもっとマシな嘘を吐くんだな」

「いや、大公はご無事だ。今は沖のアルスに逃れて拠点を構えている」

「アルスに……?」


 ざわつきだす門番。


 しかし、奥から一人の男が口を開く。


「嘘だな。アルスは聖域。あの爺と大司教が、そんなことを許すはずがない」


 振り返る門番たち。


 そこには鉄の鎧に身を包んだ痩せ型の男がいた。


「こ、コルベス様。おいででしたか」

「こいつらは例の奴らじゃねえ。魔物ならもっと、それっぽい服装でやってくる」


 コルベスの言葉に、門番たちはシスイとアカネの鎧を見る。


「た、確かに」


 そう呟く門番たち。


「某たちの鎧が珍しい、ということか」

「悪く言えば、目立っているってことですよ、姉様。ああ、恥ずかしい……」


 そんな中、コルベスが言う。


「それで、大公様の使いがこの街にどうした? 兵員なら、前も言ったが出せんぞ。そっちの状況もわかるが、こっちもいっぱいいっぱいだ」

「何か頼みがあったわけじゃない。ただ、先も言ったように本拠をアルスに移したこと、何かあれば互いに連絡を取り合いたいことを伝えに来ただけだ」

「なら、三日に一回はそっちに伝令を出す。それでいいな」

「ああ。そうしたら、こちらもそうする。それと、最近この周辺で困っていることはないか?」

「いつもと変わらずだ。全く手が回っていない」

「なら、俺たちが手を貸せる。今、アルスはそれなりに安定しているからな」


 アキトの声にコルベスは不思議そうな顔をする。


「お前たちが……? いや、そういや軍師とか言ったな? じゃあ、お前は」

「ああ。アルシュタート大公スーレの軍師だ」

「ふっ。随分と若い軍師がいたものだ。爺さんと大司教は扱いに困ってこうして、お使いに出させたんだろ」

「いや、あの二人は……」


 アキトが言いづらそうに呟くと、コルベスは途端に顔色を変えアキトに迫る。


「まさか……死んだのか? どこで!? いつ!?」

「落ち着け。あの二人はアルシュタットから人々を逃すために囮となってくれた。だが、遺体は見つかっていない。だから生死は不明だ」

「スーレ様を置いて、二人とも……」


 コルベスは唖然としていたが、アキトの存在に気がつく。


「じゃあ、今アルスを指導しているのは」

「もちろん、スーレだ。俺は師駒と共に、彼女を補佐している」

「あの二人が、お前みたいな若造に……」


 信じられないといった顔のコルベス。


 だがそんな中、街の中から声がかかる。


「コルベス様! ノルデン伯爵の手勢が北門から! また、勝手に広場に!」

「ちっ! 街がこんな時に……!」


 コルベスはいら立つように言うと、すぐに街のほうへと走っていく。


 シスイはそれを見て言う。


「ふむ。なかなかに忙しそうな御仁だ」

「どうしましょう、アキト様? 互いに顔合わせも済みましたし、帰還いたしますか?」


 アカネがそう問うが、アキトは首を横に振った。


「いや……俺たちも何か助けになるかもしれない。門番。入らせてもらうぞ」


 アキトはそう言ってノルトアルスの街へ入るのだった

キョウ屋斎先生によるコミカライズが連載中です! ナナイロコミックス様、Pixivコミック様で読めます!

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